7−1.ウェルフェアテクノハウス

     −先端福祉機器の開発と普及−


                        機械技術研究所ロボット工学部
                                 池田 喜一
 現在、我国の高齢化率は14%を越え、高齢化社会から高齢社会に突入した。これに伴い、多くの高齢者に対応する自立支援機器や介護支援機器が市販されている。通産省工業技術院では、昭和51年の制度発足以来20年以上の間、福祉機器の研究開発を行って来ている。しかし、これらの機器は利用者にとって真に使い勝手の良い福祉機器とは言えず、必ずしも全てが普及しているとは言えないのが現状である。この理由の一つとして、福祉機器開発が福祉現場から遊離していることが挙げられている。
 その対応策として、4年程前から、工業技術院ではウェルフェアテクノハウス(福祉の家:今後、単にWTHと記す)を全国に13棟(札幌、秋田、今市、調布、鴨川、静岡、高岡、滋賀、大阪、神戸、新居浜、宇部、大分)建て、現在新たに3棟を建設している。このWTHは、@福祉機器開発における研究の場として、またA一般の方達への福祉機器の啓蒙活動の場、として建てられたものである。 写真1に、全国の中心であるWTH調布の全景を示す。2階は自立を目指す高齢者を設定したフロア−であり、3階は寝たきりの高齢者を介護するという設定のフロア−として建てられている。他のWTHも地域特性に合った建物にし、近隣のメ−カ−が開発した福祉機器も配置されている。


    
            写真1 WTH調布の全景


 既に建てられた13棟については、福祉機器の評価や一般の見学が行われている。福祉機器の評価・改善では、@高齢者や障害者(主に、歩行障害者)を含む方達の滞在を通して、福祉機器の相互干渉の問題や介護スペ−ス不足による介護負担の問題等を検討したり、ANEDOの福祉用具開発助成金で開発されたソリ付歩行器、電子白杖、入浴介護支援リフト、介護用移動式チェア−等について、機器の調整範囲の拡大、安全性の向上、コントロ−ラのコ−ドレス化、剛性の向上等についての検討がなされた。さらに、民間企業で開発された自立・介護機器や天井走行用リフタ−では、機器のコンパクト化、使い勝手の良さについての指摘もなされた。これらの検討や指摘に基づいて改善がなされたものについては、より使い易く安全な機器となって世の中に出始めている。
 他方、一般の見学では、説明員の案内による機器説明の後、WTH内に設置されている福祉機器の善し悪しをアンケ−ト形式で記入してもらい、それらのまとめを行っている。入場者は年間1万人程度である。図1にWTH調布で得られたアンケ−ト結果を示す。1)特にここでは、”必要と答えた機器”についてのまとめを示す。上位から、コ−ルボタン、多機能ベッド、浴用チェア−、インタ−フォン、天井走行式リフタ−の順である。その理由として、安心である、便利である、使い勝手が良い等が考えられる。

    
            図1 アンケート結果の一例


 各地のWTHでは、福祉機器を用いた介護動作の研究、機器の操作力の研究等に生体計測を取り入れた基礎研究から新しい考えを取り入れた昇降式便座、手摺り等の応用研究まで精力的に行われている。
 今後の計画としては、国立研究機関も含めた形で共同研究を行い、幅広く研究開発をして行くことになっている。全体として、福祉機器の性能実験、操作性評価実験、安全性評価実験、住宅環境調査等の実験を予定している。また、地域に特有な機器の評価実験等も行って行く計画である。


【参考文献】

1)平成7年度総合調査研究(在宅福祉機器システム)報告書、NEDO、1995.



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