山形大学工学部電子情報工学科 高谷 節雄 米国では心臓移植と人工心臓(補助及び全置換型)は車の両輪の如く、お互いに刺 激、支援しあって進歩してきた。最近の動向としては、補助人工心臓を植え込まれた 患者が、心臓移植ドナーが現れるまで退院し社会復帰できるようになった。最近、本 邦でも米国の補助人工心臓を植え込んだ29才の患者が退院し、渡米して心臓移植を 受けた。2-3年前に空気駆動補助人工心臓を取り付けヒューストンで移植手術を受け た尾崎君の場合と比較して飛行機の中等での管理において大変楽だったと聞いている が、非常に喜ばしいことである。また、心臓移植の対象とならない患者では、体内植 え込み式補助人工心臓の永久使用が開始され、体内完全植え込み式全置換型人工心臓 は西暦2000年に臨床応用に入ると言われている。このような背景下、現在米国では、 年間2000-2500例の心臓移植が行われているが、心臓移植に関しては、ドナー(誰 か一人死なないといけない)を必要とし、移植後の免疫抑制剤による合併症や高コス ト等の問題を含んでおり、心臓移植を受けられずに亡くなる患者数は年間 3-5万人に 昇と推測されている。したがって、心臓移植は頭打ちの状態であり、心臓移植に代わ る方法として、人工心臓、BioengineeringやGenetic Engineering等への期待が集 中している。将来的には、補助または全置換型人工心臓を永久使用するか、ドナーが 見つかれば移植を行うか、あるいは病的な心臓機能を復元させようという企てで、遺 伝子工学や分子生物学の方法を人工心臓と併用し、心臓病を根本的に治療する方法の 開発研究が計画されている。 本邦では、心臓移植再開のための準備状況も良好との声を聞くこの頃であるが、心 臓移植が再開されて本邦での人工心臓開発の必要性も再認識されるものと思うが、心 臓移植を成功させるために人工心臓の開発は不可欠である。移植に先立ち、補助又は 全置換型人工心臓を植え込み全身状態を改善し、ドナーが出た時点で移植を行うとい う組織だった準備が必要であろう。また、心臓移植を受けられない患者には、永久使 用補助または全置換型人工心臓の適用そして、BioengineeringやGenetic Engineeringの応用も考えるべきである。このためにも、医学/工学の諸分野の連携 のとれた共同研究、大学、研究所、企業と産学官調和のとれた研究開発体制、特に、 国家プロジェクトとして将来的な構想のもと研究開発を企画すべきである。このため にも、各省庁、特に厚生省内でそれぞれの研究に関する専門家を確保し、リーダーと して大学、研究所のスタッフと交渉を持ち、本邦のニーズに合った独自の研究開発計 画、研究費の配分を企画して欲しいものである。近い将来、本邦で開発された人工心 臓を使用し、本邦で心臓移植が行われる日の来るのを夢みながら、私自身臨床応用を 前提とした人工心臓開発に専念したいと思う。