早稲田大学理工学部 土屋 喜一 この度バイオエンジニアリング部門の皆様のご推挙により第2回(平成7年 度)功績賞を受賞致しました.歴代の部門長の先生方をはじめ委員の先生方に 厚くお礼申し上げます. 振り返ってみますと,私は制御工学と生体医用工学の両面から,人間にアプ ローチしてきました.学部では振動学を専攻し,卒業の頃,自動制御工学が紹 介され興味を感じ,大学院で非線形制御を研究しました.その後,オートメー ション産業で計測制御機器の設計,研究を9年間行いました.昭和38年,母 校で制御部門を充実することになり大学に戻りました.大学では先輩の後を追 うより,何か違った分野を旗揚げしたほうがよいと思い,かねてから興味を持っ ていた流体素子回路の発振現象の研究を始めました.昭和40年,この回路が 人工心臓の駆動回路に応用できるということで,近くの東京女子医科大学附属 日本心臓血圧研究所(所長・故 榊原 仟教授)から協同研究の申し入れがあ りました.これが医療分野へ入る契機になりました.当時は私も若かったし, 幸い家族も健康で,医療や病院のことは殆ど知らず関心もありませんでした. しかし,病気の治療に貢献できること,人間あるいは生物の仕組を工学的に解 明するという新しい分野への期待がありました.特に自動制御を専攻していた とき,人間の身体の制御機構には未知,神秘な面が多く,長く関心を抱いてい た分野でしたので早速協力することに致しました.これが縁で,実際の心臓手 術を見学したり,動物実験で人工心臓の試作をしているうちに,生物・人間と 機械工学の周辺に解明しなければならないテーマが山積していることが分かり ました.勿論医用生体工学分野は当時既に盛んでしたが,それは心電計や脳波 計と電子工学の周辺との境界で生体医用電子工学というべき分野でした. その頃,ロボットの研究を始めていた畏友・梅谷陽二教授(豊田工大,当時 東工大)とはからい機械学会の中に研究会を作って戴きました(昭和45年5 月〜同47年4月,研究会報告:会誌76巻656号<昭和48年8月>p.9 83). 私はその後,医者からの要望で,人工弁,人工心肺,心臓マッサージ,臓器 保存,医用計測,内視鏡,人工筋肉など間口を広げて参りました. 10年前,学会の改組に際し,バイオグループが小さな集団にもかかわらず 部門制発足のとき最初の部門として取り上げられました.若干の心配もありま したが,その後の部門長,委員の先生方のご協力により,かなりの成果をあげ ていることに敬意を表したいと思います. 永年にわたり,便利な自動化社会と長命社会の実現に,結果として寄与して 参りましたが,人間と技術・医療の問題を基本から問い直す時代に入ったと実 感している今日この頃です.