バイオエンジニアリング部門長 関西大学工学部 大場 謙吉 この度,第74期部門長をおおせつかり,微力ですが当部門の活性化とバイオ エンジニアリング分野の研究の発展のために部門会員の皆様と共に尽力致した いと考えております. 当部門が,日本機械学会の部門制への以降に際して最初の3試行部門の一つ として発足して以来,9年余りが経ちました.図らずも,今年は部門制の全面 見直しと部門再編成の年に当たっており,各部門ともこれまでの活動の自己点 検作業を始めているようです.当部門が既に昨年,講演会活動の見直しを完了 し,今年から新方式に移行したのは,時宜を得たものでした. 周知のように,当部門が扱っているバイオエンジニアリングの研究分野は, 工学,理学,医学,生物学,体育学などにまたがる非常に幅の広い,横断的, 学際的,総合的分野であります.したがって,生物および生命現象に係わって いることを共通点として,機械工学だけでなく様々な異なった分野から様々な 立場の研究者,技術者が集まって,交流し,研究する場を提供するのが当部門 の役割であると考えられます.このように生物および生命現象を一括して取り 扱う部門は日本機械学会の中には他に無く,ここに当部門の特色があります. このような観点からこれまでの部門活動を振り返ると,登録会員数1045名 (1位+2位,'96-1-31現在.3位まで加えると1573名)の小規模部門にして は,歴代の故・瀬口,林,立石,赤松,松崎の各部門長を先頭とした部門執行 部,運営委員を中心として非常にアクティブに活動して来たと言えます.部門 主催の定例講演会,国際会議,バイオサロン,見学会,研究会,日本機械学会 全国大会におけるオーガナイズドセッション,部門報の発行等の活発な活動実 績を背景に,当部門は,工学から医学・生物学にまたがるバイオメカニクス関 連の19学会で組織されている「日本バイオメカニクス研究連絡協議会」の幹 事学会として協議会発足時より今日まで取りまとめ役を務めています. このような横断的,学際的性格は,従来とは違う新しい研究を始めようとす る者にとっては大変有難いものです.例えば,私自身はもともと造船学出身の 流体屋であり,希薄気体,気泡流,液滴の凝縮等に関する実験を種々のレーザー 計測法を用いて行っておりました.1977年頃,川崎医科大学の梶谷教授から誘 われて,模擬血管の一種であるコラプシブルチューブの実験を始めて以来,現 在に至るまで主に血流と血管の相互作用に関する体外模擬実験を中心にバイオ メカニクスの研究を手掛けてきましたが,様々な分野からバイオエンジニアリ ングの研究に参集している国内外の研究者達との討論や交流によってずいぶん 刺激を受け,それが研究を進める力になって来ました.もっとも,今に至るも, 手掛けて来たバイオ系の研究の全てが中途半端で,少しもまとまっていないの は我ながら歯がゆい限りですが. 当部門の今後の課題としては,若手層の質的,量的増大を図ること,産業界 からの会員や部門事業への参加者を増やして,産官学の連係による活動の活性 化を図ること,現在20以上の学会に分かれているこの分野の学会活動を相互 に連係させ,さらには出来るだけ統合して,米国機械学会のバイオエンジニア リング部門のような強力な部門を目指すこと,海外の学会や国際機構との連係 を図ること,などが挙げられます.松崎・前部門長も述べているように,次世 紀には人間,自然,人工的環境が共生するための総合的視点に経った機械工学 が必要になると考えられ,人間を含む生物および生命現象を一括して取り扱う バイオエンジニアリングは今後とも機械工学の中で重要な位置を占めることは もちろん,新しい工学の創生に大いに貢献出来ると考えられます.意欲のある 若手研究者のこの分野への参入を期待します.