5-5 部門賞報告
   バイオエンジニアリング部門
   「瀬口賞」を受賞して


                 名古屋大学大学院工学研究科
                         マイクロシステム工学専攻
                                 山田 宏

 今回,瀬口賞を賜り,感慨無量の思いがあります。理想と現実の狭間で喘ぐ中での
受賞は皆様の暖かい励ましのお言葉のようにも感じられます。これまでお世話になり
ました多くの先生方に御礼申し上げます。
 私がバイオメカニクスの分野に興味を持ちましたのは,名古屋大学機械工学専攻の
博士課程で村上澄男教授・田中英一助教授の材料力学講座に入れていただいたときで
す。村上先生がDr. Y.C. Fungの著したBiomechanicsをお見せ下さり,そのとき初め
てこの分野を知りました。私はバイオメカニクスに従来の工学に比べて人間に近いも
のを感じ,この分野に飛び込むきっかけとなりました。瀬口先生には,大阪で開かれ
たバイオメカニクス研究会に田中先生と出席して,初めてご挨拶申し上げたことを覚
えています。博士課程では研究室の専門の金属の非弾性(粘塑性)変形理論を学び,
その知識を血管の変形挙動の記述に応用しました。このとき学んだ連続体力学の素養
は生体組織の力学的現象を取り扱う上での貴重な礎となっています。
 助手に採用後,生体軟組織のモデル化や数値解析を続けていくうちに是非一度,海
外で学んできたい気持ちが膨らんできました。特に実際に組織を用いた実験を体得し
たいと思うようになりました。論文や諸先生方のお話から米国ボルチモアのジョンズ
・ホプキンス大学で活躍されているDr. F.C.P. Yinの研究室を選んでインタビューを
受け,無事受け入れが決まり,平成4年4月から翌年の10月まで当地で学んできま
した。Dr. YinはDr. Fungの最初の博士課程の学生だという話を聞いたことがありま
す。Dr. Yinは心臓を専門とする医者であると同時に心臓の力学的挙動に関する研究
も行っていました。研究室は家庭的な雰囲気で,研究室の方々と数々の思い出を作っ
てきました。滞在中は心臓壁内の圧力測定の実験と心臓の変形が冠動脈の流動抵抗に
与える影響に関する実験に取り組みました。また,Dr. Yinが懇意にしているオラン
ダのDr. N. WesterhofとDr. P. Sipkemaの研究室にも連れて頂けました。始めの1
年は結果が出ずしんどいものもありましたが,帰国までには何とかデータを整理でき
ました。
 新設のマイクロシステム工学専攻に移り,最近では医学部の先生方の研究にも加え
て頂いています。また航空宇宙工学専攻の松崎教授・池田講師の研究室のゼミでも勉
強させて頂いています。私は誰の目にも力学の有用性を確信できるようなバイオメカ
ニクスの研究成果を出すのが夢です。バイオメカニクスの研究を,周りの方々とのつ
ながりを通してさらに広げていきたいと思いますので,今後ともよろしくお願い致し
ます。


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