5-5 部門賞報告

 バイオエンジニアリング部門賞(功績賞・業績賞・瀬口賞)の詳細につきま
しては、機械学会誌3月号部門だより(220頁)に掲載しております。本号では、
平成6年度の業績賞の谷下一夫氏(慶応義塾大学教授)よりご寄稿いただきま
した。なお、第1回功績賞のDr. Y.C. Fung(カリフォルニア大学サンディエ
ゴ校名誉教授)への贈呈式は、平成8年の通常総会時に行われる予定です。

バイオエンジニアリング部門業績賞を受賞して

                       慶應義塾大学理工学部
                              谷下一夫


 1969年に工学部機械工学科を卒業して、修士課程に進んだ。その年は日
本の大学は全国的に大学紛争の最中にあり、私が入学した大学院の東京工業大
学も、全闘委に封鎖されており、研究室輪講は近くの等々力区民会館で行う状
態であった。その頃は高度成長期の末期にあり、工学技術は何事も効率が最優
先であった。同時に効率第一主義の工学技術のマイナス面が顕在化したのもそ
の頃で、大学紛争の際、研究室の友人と工学の将来について議論するうちに、
それまでの効率第一主義の工学の発展の仕方ではどう見ても限界があるのでは
ないかと感じるようになった。そのような気持ちを引きずりながら過ごしてい
たとき出会ったテーマが生体工学である。自分のライフワークのテーマを模索
するように米国のブラウン大学の大学院に留学した時、工学部と医学部との人
工肺に関する共同プロジェクトがあり、直感的にこれこそ自分が探していたテ
ーマだと感じた。これからの工学は生物と人間あるいは自然と調和する形でし
か進歩しえないとそのとき確信した。そのときの共同プロジェクトをオーガナ
イズされていたのがRichardson,Galletti両教授であった。
両教授のご指導のもとに学位論文をまとめ、日本に帰国した後、生体工学の研
究を続けたいと思っていた所、東京女子医大の日本心臓血圧研究所の研究部に
助手として採用して頂いた。東京女子医大で5年間お世話になったが、研究部
の桜井靖久教授(現医用工学研究施設長)、菅原基晃教授をはじめとして、吉
川昭博士(現近畿大学教授)、赤池敏宏博士(現東京工業大学教授)、山口隆
美博士(現東海大学教授)、田宮浩一博士など教室の諸先生から、生体工学と
いう境界領域の研究の何たるかを教えて頂いた。この5年間における諸先生と
の出会いが私の人生を決めたような気がする。その後母校の慶應義塾大学理工
学部に戻り、自分の研究室というものを初めて経験し、若い学生諸君との研究
生活が始まった。機械工学を学んだ若い学生諸君は新しい生体工学の研究に極
めて意欲的に取り組んでくれ、これまでに4名の博士が出ており、さらに4名
が現在博士課程に在学中である。このように私は色々な分野の先生方や若い学
生諸君の熱意に支えられてここまで来れたと思っているが、今の私の研究室で
取り組んでいるテーマは、私が修士課程の大学院生だった頃の模索に対する一
つの解であると確信している。今後21世紀を迎えてバイオメカニクスの分野
はますます重要になると思われるが、人間や自然との調和を見いだす科学技術
の実現に対して、微力ながらも尽力したいという気持ちは変わらない。今度頂
いた業績賞の前受賞者は超一流の学者の方であり、私のところで賞の格が下が
らないように、私にとっては「もっと努力しろ賞」と解釈して、今後一層努力
することを肝に命じている。最後に、ここまでご指導頂いた諸先生方や諸先輩
のご好意と研究室のOBや学生諸君の尽力に深く感謝する次第である。

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