No.13-26 イブニングセミナー(第158回)
福島原発事故と放射線の人体へ及ぼす影響
U R L http://www.jsme.or.jp/tsd/
(技術と社会部門 企画)
開催日 | 2013年3月27日(水)18.00~20.00 |
会 場 | 明治大学理工学部 駿河台キャンパス(リバティータワー12階1123室) 東京都千代田区神田駿河台1-1/電話(03)3296-4545 JR中央線・総武線、東京メトロ丸ノ内線/御茶ノ水駅 下車徒歩3分 明治大学キャンパス案内図(http://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/suruga/access.html) |
趣 旨 | 技術はいま,資源,環境問題をはじめ,巨大化とブラックボックス化による人間疎外の傾向に関して多くの批判にさらされている.技術が受け入れられて発展するのも,拒絶され衰微するのも,また技術者の社会的地位のあり方も,社会との深い関わりの中にあることは明らかである.われわれが新しい時代を担う責任ある技術者であろうとするならば,人間についての深い洞察を持つとともに,社会の動きを正しく見極めなければならない.技術と人間,技術と社会の関わりについて現状を理解し,将来を展望することを目的とする.
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テーマおよび講師 | 原発事故は従来から多発していたが、原因究明は曖昧模糊としたままであった。今回の福島原発事故を機会に、原子力という技術にも鋭い視線が注がれるようになった。そして、改めて、行政の在り方、経済の在り方、科学技術の在り方を問い直す機会ともなった。しかし、政策や執行に関する隠蔽体質は維持されたままである。原子炉に関するデータや解析結果も公表されていない。抽象論が先行し、具体的な情報提供は少ない。 原子力設備設計は経済産業省告示501号に従っている。この告示の根幹である原子力設備設計指針(設計・建設規格,維持規格)は機械学会が責任を持って定めたものである。しかし、今回の事故に際して、機械学会が公的に何らかの発表や調査をしたという報道はない。 今後の原子炉稼働に関する根源的な問題が潜んでいるため、原子炉圧力容器系に関わる諸問題も浮上してはいる。機械設計学者でなく原子力学者による原子炉事故の解析を試みた書籍も出版され始めている。内容は、「地震動による圧力容器への損傷は全くなく、制御棒は順調に挿入された。地震直後に取られた弁の開閉等に関する操作は的確に行われた。従って、津波が到来しなければ、何の問題もなく終息した。しかし、津波到来によって全電源喪失を来し、圧力容器内が空焚きの状態となり、燃料棒が溶融したというもの。制御棒が順調に挿入されたが、放射性同位元素の崩壊熱* が残っており、その熱によって、炉水の蒸発や燃料棒の溶融が起った。」としている。 機械設計者から見ると根拠(原子炉、タービン、復水器、給水ポンプからなるランキンサイクルとして捉える。このいずれかの機器が破損しサイクルが成り立たなくなった場合どのような現象が生じるかが、事故解析の出発点である。この現象は、湿り蒸気線図を根幹として解析しなくてはならない)が、全く解明されていない。このように根拠なく数値だけが示されると、それに反論するのは庶民にとっては至難の業である。従って、津波の到来さえ避ければ、原子炉は安全であるという根拠が通ってしまう。 著者は、地震動によって、制御棒の挿入がままならず、核融合の崩壊は依然として継続していたとする立場を取っている。その、制御棒の挿入を不可能にするものは、地震動による液面の上下動(スロシング)のみならず、炉水内に圧力変動と考え、解析を進めた。今回は、この結果について報告したい。 機械設計技術者は、どのような事故現象であれ、それを礎にして新たな一歩を踏み出す。事故現象を解析するため、大胆なモデル化と数式の誘導、数値の提示をする。それを基にして解析の正誤も含め議論を重ね、以後の設計に役立てていく努力をする。その結果がデザインレビューやFMEA(Failure Mode Effect Analysis)にも反映されるわけである。 今回の福島原発の事故は放射線による健康被害について国民から追及されることとなった。当該分野の研究系譜は日本学術会議による原子爆弾災害調査報告書が起点である。これは、原子爆弾投下直後から12月にかけて、東京帝国大学教授を主にして、多くの研究者が携わって調査された結果報告書である。1951年、53年に公表されている。しかし、それ以降の傷害調査は、原爆傷害調査委員会(Atomic Bomb Casualty Commission]に委ねられ(1946年11月に日本に派遣された調査団を主体にして「日米合同調査団」として発足)、放射線被曝下での生存可能性を探ることに焦点を当てた。そして、厚生省にも働きかけABCC調査への協力を約束させ、1947年に「国立予防衛生研究所」を設立させている。ABCCは傷害の実態調査が目的であったため、被爆者の治療には一切当たることはなかった。被曝者は、全くの人体実験となってしまった。ここでの調査研究結果と米国がビキニ環礁や砂漠地帯で行っていたデータを基にして、後の放射線影響の評価基準データとして利用された。このデータの公表といっても、1975年にABCCと厚生省国立予防衛生研究所が再編され、日米共同出資運営方式の財団法人放射線影響研究所(RERF)に改組された後である。この放射線影響研究所から、放射線についての被害状況について報告されるようになったのは1990年代以降になってからのことである。 しかし、今回の福島原発事故に際して、多くの書には『最も貴重なデータは、広島・長崎の原爆被害者についての『放射線影響研究所の調査資料』である』と述べられている。確かに、UNSCEAR 2010 報告書(国際科学委員会)でも [日本の原爆被爆者の全てのがんを総合した結果が放射線量と発がんのリスクの関係を最も明確に示している]とも指摘している。この調査資料には白血病やがんで死去した人のデータも紹介されているものの、生データではなく、何らかの意図に従って整理・加工されたものである。他の学術分野では通用しないような手法も取入れられ、多くの処理上での問題点を抱えていることが分かる。 本来的にはこのようなデータは、統計学的に処理するが、そのような処理は見受けられない。 著者は、放射線影響研究所の調査資料の基である原子爆弾災害調査報告書を復刻した。 原子爆弾災害調査報告書は、2010年に米国国立公文書館での存在が明確となったもので、NHK では65年間封印されてきたと報道した。この復刻を機に、改めて、放射線影響研究所の調査資料で使用されている文章上の定義を数理学的処理に資するように確率密度関数として表現した。それに従って、リスクという言葉で表現されているデータ等を検討し直した。国民の知りたい放射線量とその被曝による発病の可能性について、具体的数値を提示した。そして、被爆放射線量と病名及び発病確率の一覧も提示してきた。この結果についても若干触れたい。 講師:大滝英征(埼玉大学名誉教授、機械学会フェロー) * β線が放出されると、原子核中の1つの陽子が中性子に変わり、α線(2つの陽子と2つの中性子)が放出されると原子番号が2つ下の原子に変わる。これらの放出に伴い崩壊熱が発生するが、冷却が充分出来ずに融点以上になると、部分的に固体(結晶)が溶融して液体になる。 (文責:小西) |
【参加費】 | 正員 1000円(学生員 無料) 会員外 1500円(一般学生 500円) 当日会場にて受け付けます. |
【申込方法】 | 「No. 13-26 イブニングセミナー(第158回)申し込み」と題記し (1)会員資格(会員番号),(2)氏名,(3)勤務先・所属,(4)連絡先(郵便番号・住所・電話番号・E-mailアドレス)を明記の上,E-mailまたはFAXにて下記までお申し込みください. |
【申込先】 | 日本機械学会(担当職員 曽根原雅代)E-mail: sonehara@jsme.or.jp ,FAX (03)5360-3508 |
<懇親会> | 大学近くの「パブレストラン アミ」にて,講師を囲んで懇親会を行います. 会費 3 000円程度 |
【問合せ先】 | 日機装技術研究所 小西義昭/電話(042)392-3087 E-mail:y.konishi@nikkiso.co.jp/ 明治大学 村田良美/電話(044)934-7350 E-mail:murata@isc.meiji.ac.jp |
次回予定 | 2013年4月24日 |