第84期部門長あいさつ

岡崎 健

第84期熱工学部門長

東京工業大学 大学院理工学研究科
機械制御システム専攻 教授
okazakik@mech.titech.ac.jp


 2006年4月より、第84期熱工学部門長を仰せつかりました。さらなる部門の活性化のために微力を尽くす所存ですので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 熱工学部門は、熱力学・伝熱学、燃焼学、熱物性を3本の柱としつつも学際領域をも包含し、これらの現象に関わる基礎学理を構築するとともに、これによる新しい工学的応用に向けたシーズを発信し、熱工学に関わる新技術開発に資することを目的とした学術集団であると認識しています。従って、具体的技術により重点を置いた動力エネルギーシステム、エンジンシステム、環境工学などの他の部門と強くリンクしつつも、これらに共通する基礎・基盤の確立といった熱工学部門独自の重要な役割を担っています。それゆえ、熱工学部門への登録者数は、本年度4月末現在で、第1位登録が2548名、第1位?第3位登録が6346名で、いずれも機械学会全20部門中3番目の大きな規模となっています。
 しかしながら、いくつかの大きな問題を抱えています。まず第一は、熱工学の3本柱である伝熱、燃焼、熱物性のそれぞれが別々の学会組織を持っていて独自のシンポジウムを開催しており、熱工学という共通基盤への求心力が薄らいできていることです。それぞれのシンポジウムでの自発的な発表件数は増大しているにもかかわらず、熱工学部門主催の熱工学コンファレンスでは、オーガナイズドセッションへの発表依頼などの相当な努力が必要とされる状況にあります。また、3本柱間の遊離が顕著になっていることも危惧されます。伝熱プロパーの研究者が燃焼工学の著名な研究者の名前さえ聞いたことがないというようなことさえ頻繁に起きていますし、熱工学部門の運営自体が、伝熱分野しかも大学関係者に偏りすぎています。これらの問題点を是正するために、まずは部門内の相互横断連携、人的ネットワークの強化を図るための方策を実施したいと考えています。その上で、関連他部門との横断連携を考えて行きたいと思います。
 第二は、基礎・基盤を強調するあまり、産業界との乖離を生じていることです。これまでも、熱工学部門での大学と企業の関わりや基礎研究と応用研究のありかたなどについて、頻繁に議論されて来ましたが議論止まりで、何をどう変えるためにどのような具体的なアクションを起こしたか、それによって何が変わったか、というフォローアップが十分になされていません。熱工学は学問体系としてほぼ確立している成熟分野であるから研究分野の広がりに乏しく、工業的な新しい応用分野が見えにくいという意見もありますが、産業の高度化に伴い、ミクロ・ナノ、原子・分子・量子、化学反応、界面、非平衡などに関連する極限状態や境界領域でのエネルギー伝達、物質変換、物質輸送の現象の本質的解明が要求されており、大学での基礎研究に対する産業界からの強いニーズはかえって増大しています。大学側研究者のこのような新領域への果敢なチャレンジにより、新現象の発見などによる大学側からのシーズ発信とその応用展開が図られ、ニーズとシーズのマッチングが起これば、大学と企業との連携は自然発生的に成立します。枠組みの議論だけが先行しても成功しません。とにかく両者がそれぞれの研究のあり方を認識した上でこれを実行に移し、共同で新しい世界を切り拓くきっかけになる機会を増やしたいと考えています。
 第三は、部門の運営に関するものです。熱工学部門は第1位登録者数だけでも2500名を超え、1つの学会規模となっているにもかかわらず、部門の運営業務が、部門幹事および運営委員会を代行する総務委員会の幹事に過度に集中しています。機械学会本部サイドで対応すべき業務までが部門に投げられているような感じがしています。部門幹事や総務委員会幹事は、大学や研究所での膨大な本務を抱えていますし、他の学会での業務にも忙殺されています。学会はボランティア(これ自体は基本的には正しいものの・・)という錦の御旗にも物理的限界があり、対応を考え直す時期に来ていると思います。学会本部での業務の合理化とシステム改善と連動させて、部門運営業務を簡素化して軽減するための方策を積極的に図ってくれるよう、部門協議会等を通して学会に強く働きかけていくつもりです。本部企画(趣旨は正論かもしれないが・・)なるものの実務が次々と部門に投げられてくるような状況は、回避しなくてはなりません。部門だけでなく対応する本部事務までがオーバーフローしてしまい、企画の趣旨が実現できずに形式倒れになってしまう恐れさえあります。今年度は部門活動評価の年に当たります。熱工学部門としては、本当に意味のある企画に焦点を絞り、評価点を上げるための必要以上の行事の企画を行うことは、敢えて致しません。
 熱工学部門では、機械学会の中でもいち早く電子ジャーナル化を実施するとともに、2007年7月8?12日にカナダのバンクーバーで開催される日米熱工学会議、伝熱工学資料の改訂、あるいは計算力学技術認定など、真に部門の活性化につながる活動は、担当者の御尽力により鋭意進められています。これに加え、部門運営の健全化を図るために、上で掲げた方針を実現すべく努力していく所存です。熱工学部門所属の方々の御支援と御協力をお願い申し上げます。