第91期熱工学部門長 東北大学 流体科学研究所 高速反応流研究分野 教授 小林 秀昭 kobayashi@ifs.tohoku.ac.jp |
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2013年4月1日 | 2013年4月より第91期部門長を仰せつかりました.部門長就任にあたりご挨拶申し上げます. 日本機械学会熱工学部門は,伝熱学,熱物性学,燃焼学をコアとする学会員から構成され,個々の研究の深化と研究領域拡大に寄与する分野間交流の機会を提供して参りました.我が国における熱工学の関連領域は,従来の熱利用機器からナノデバイス,生体メカニズムまで幅広く展開されております.諸外国では研究分野の隆盛が研究予算の獲得し易さに敏感に影響され,研究者コミュニティーが拡散する傾向にあるのに対して,我が国における熱工学が求心力を保ったまま領域を拡大させているのは,科学研究費などの研究予算システムが広範な基礎研究や萌芽的研究を許容し,研究テーマの自由度が確保できる機能を果たしてきたことや,自負を持って個々の研究を展開している日本人の特質などと無関係ではないでしょう.熱工学の役割は多様ですが,ここでは特に我が国において中長期的視野に立って取り組むべき二つの課題に注目したいと思います. 第一は安全なエネルギー体系構築への熱工学の役割です.東日本大震災から2年が経過しましたが,被災地復興の進展に大きな格差が生じており,沿岸部にはほとんど復興の見通しが立たない地域が多数存在しております.昨年度政権が代わり,株価が上昇し企業業績が改善するなど,日本経済に明るい兆しが見られる一方で,昨今の経済の回復は,震災体験と原発事故の経験を風化させないかと危惧する国民も多いのでないかと思われます.大震災は,地域のみならず社会の安定と安心をもたらしているのは何であったかを明らかにし,その脆弱性をも示すこととなりました.経済のみの優先は原発事故の教訓を希薄なものにしかねません.熱工学に関わる方々は,新しいエネルギー体系がどのようにあるべきか,パラダイムの再構築に果敢に取り組んでいただいたいと思います. 第二は総人口減少に対応した新しい社会ならびに産業における熱工学の役割です.我が国の総人口は平成20年末をピークに明らかな減少に転じたことが知られております.今後65歳以上の高齢者割合は増加の一途をたどり,若者の人口割合は減少し続けます.人口構成の変化は長期的に後戻りできない状況にあり,国民がこれまで経験したことのない社会構造,産業構造の変化をもたらす可能性があります.国民生活の質の維持と幸福感の将来は大震災の経験と無縁ではありません.人口構成が大きく変化する社会で産業と生活をうまくマッチングさせるため,多様なエネルギー機器,医療技術,生活環境の質を確保する技術にも熱工学が貢献できるものと考えます. さて,最後に部門運営について今期の課題を述べたいと思います.今期は財政安定化に向けた方策を実行に移します.日本機械学会の各部門には,運営経費として学会本部より交付金がありますが,部門運営に必要な経費をまかなえる額とは言えず,数年に一度の国際会議による収益積立金などを取り崩して不足分を補填しています.しかし,積立金増額の機会は確実ではなく,例年の部門行事から収益を得て財政を安定化させる必要が生じておりました.そこで今期は,部門の主要行事のひとつである熱工学コンファレンス参加費を値上げさせていただくと共に,もうひとつの主要行事であります熱工学の新領域に関するセミナーを,熱工学コンファレンスに先立って開催されて参りましたプレコンファレンスセミナーに代えて開催いたします. 部門活動には,学会員の皆様のご理解とご協力が必要不可欠であります.併せて,工学の基盤分野を広く包含する熱工学が,中長期的な視点で社会の発展に貢献できますことを願っております. |