第90期熱工学部門長 北海道大学 大学院工学研究院 エネルギー環境システム部門 教授 近久 武美 takemi@eng.hokudai.ac.jp |
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2012年4月1日 | 2012年4月より第90期の部門長の大役を仰せつかりました。部門長就任にあたり、ご挨拶を申し上げます。 熱工学部門は、熱力学・伝熱学、燃焼学、熱物性を3本の柱として、ナノ・マイクロ領域、生体関連、電子機器冷却ならびに燃料電池等の新領域を取り込みながら、これまで対象領域を広げてきました。しかし、わずかずつではありますが次第に会員数が減少しているほか、産業界との乖離も進行しているような気がいたします。これはインターネットを始めとする情報手段の変化、インパクトファクターを含む世界的な評価基準の導入、短期的成果要求に伴う地道な産学連携の敬遠、学会領域の細分化などが背景にあるものと考えます。 これまで、国内の講演会で産学を含めた研究者の情報交換がなされ、論文集も国内のエンジニアに向けて充分に醸成された質の高い論文が発行されておりました。しかし、インパクトファクターの導入によって、日本語論文の評価が国内においても顕著に低下し、研究者の多くがインパクトファクターの高い論文にのみ目を向けるようになりました。また、極めて多くの情報を簡単に検索でき、世界最先端の情報を容易に入手できるようになりました。そのため、講演会に出席して情報を得る必要が低下し、また産学連携では成果を得るまでの時間が長いため、それよりもインターネットによって最先端の情報を素早く得たほうが短期的要求に応えられるようになったことが企業の学会離れを加速しているものと思います。さらに、産学ともに研究者が極めて多忙と成り、ゆっくりと学会で交流をしている余裕が無くなってきたことも変化の要因と考えられます。 このような社会情勢の中で、熱工学部門が社会ニーズに応えていくためには、いくつかの異なるニーズに応じた魅力要素を活動の中に盛り込んでいくことが肝要と考えます。社会ニーズとして、まず昨年生じた東日本大震災および原子力発電事故に伴い、新しいエネルギー社会の形成が求められております。一方、安価な海外製品の流入と産業の空洞化が進行しており、雇用状況の悪化に対する対応が求められております。私自身は、再生可能エネルギーを中心とした新エネルギーインフラ形成を推進する事が、長期的な視点での持続可能社会の形成につながるほか、エネルギー産業の振興と雇用の創出効果もあるものと信じております。そのためには、エネルギー技術に密接に関連した熱工学研究者の活躍が必要ですし、経済学や人間行動学あるいは政策学等と連携した研究も新たに必要になるでしょう。したがって、こうしたテーマを含むフォーラムの開催がニーズに応える一つと思います。 次に、講演会は質の高い情報交換の場と同時に、産学官の若手研究者・技術者ならびに学生の育成の場としての意味があります。部門の活動にはこの両者が要求されます。熱工学に関連した国際会議には他学会と連携しながら、IHTC国際会議、IFHTフォーラム、日米韓熱工学会議、日韓熱流体会議が開催されております。これら国際会議のそれぞれに特徴を持たせながら両者を使い分けるほか、国内の講演会においても、それぞれの要素をフォーラムやOSおよび一般講演の形で特徴を持たせながら明示する事が一案です。 このほか、部門活動に従事する方々の負担を軽減するために、様々な作業の簡素化、効率化を図りたいと思います。活動が肥大化するのは世の常であり、部門長はより一層活動を活発にする事に重点を置きがちですが、私はこの省力化の推進に重点を置きたいと思っております。一方、これまで部門の余剰金の削減が求められていたため、継続的に赤字運営を行っておりましたが、一般社団法人化に伴って目的基金の積み立てと合わせて余剰金の繰越が可能となりましたので、赤字運営からの軌道修正が今後必要となります。学会運営担当者の負担を軽減しながら収支を健全化する方策を新たに検討いたしたいと思います。このほか、日本語と英語論文を一つにまとめた新たな論文集に移行する事が検討され始めておりますが、伝熱学会と共同発行しているJTSTは高い評価を既に受けており、この継続を堅持しながら機械学会の動きにも協力していきたいと考えております。また、会員のニーズに応えることが会員増加の基本ですので、これらのバランスを考えながら会員に喜ばれる活動を推進していきたいと思います。これらはそれぞれ相反するところがありますが、関連委員と意見交換しながら、最良の手段を見出すよう努力いたします。 以上の目標は取り立てて真新しいものではありませんが、実質的な効果を上げることは容易ではありませんので、運営委員会と総務委員会を中心に活発な議論をしていきたいと思います。諸先輩ならびに会員の皆様のご支援を、どうかよろしくお願い申し上げます。 |