編集後記
TED Newsletter No. 82の編集を終えて


  水などの大きな融解潜熱を有する物質(潜熱蓄熱材)は,固液相変化の過程において多量の熱を,大きな体積変化を伴わずに吸収・放出します.熱工学の分野においては,熱エネルギーの効率的な利用を目的として,このような潜熱蓄熱材の性質を高密度蓄熱に応用する技術(潜熱蓄熱技術)の研究が進められています.
  本号のTED Plazaでは,3つの異なった物質を潜熱蓄熱材として用いた,それぞれ異なる方式の潜熱蓄熱技術をご紹介いただきました.
  明治大学の川南剛先生には,パラフィン系潜熱蓄熱材が極めて微細な粒子の形態をとって液中に懸濁した構造をとることで,潜熱蓄熱材が凝固した状態でも流動性を失わないことから,高い機能性をもった潜熱蓄熱媒体としての利用が期待される相変化エマルションの諸特性についてご執筆いただきました.
  青山学院大学の熊野寛之先生には,水の凝固点よりもやや高い温度で水和物を形成することから必要以上に低い温度域を避けて潜熱蓄冷熱を行うことができるTBAB水溶液を用い,相変化エマルションと同様に,生成された水和物が液中に懸濁した構造をとるTBAB水和物スラリーの諸特性についてご紹介いただきました.
  岩手大学の廣瀬宏一先生,王強勝様には,最も身近で安価かつ安全な潜熱蓄熱材である水を用い,パイプ外面に氷を成長させることで蓄冷熱を行うスタティック型氷蓄熱槽を対象として,凍結と密度逆転を伴う自然対流が共存する非常に複雑な氷の成長過程を,数値計算と実験の両面から捉えたご研究をご紹介いただきました.
  今回のTED Plazaは,僭越ながら広報委員が記事のテーマを設定し,ご執筆内容に注文を付けさせていただいたため,ご執筆いただいた皆様にはより一層のお手数をお掛けすることになってしまいました.しかしながら,ご執筆テーマの選択や内容の重複などについて暖かいお心遣いをいただいた結果,異なった方式の技術を一覧できる,よい記事が出来上がったと思います.  お忙しい中,ご執筆を快諾くださり,編集作業に根気強くご協力くださった皆様に,心より御礼申し上げます.

(編集担当委員:富樫・福江)




●第95期広報委員会

委員長: 染矢 聡(産業総合技術研究所)
幹 事: 片岡 秀文(大阪府立大学)
委 員: 大徳 忠史(秋田県立大学)
富樫 憲一(北海道立総合研究機構)
福留 功二(立命館大学)
福江 高志(岩手大学)
早川 晃弘(東北大学)
江目 宏樹(芝浦工業大学)

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