熱工学コンファレンス・プレコンファレンスワークショップ開催報告

第92期熱工学部門講習会委員会
委員長 西村伸也(大阪市立大学)
幹事 小田 豊(関西大学)

 当熱工学部門で2年前に「熱工学ワークショップ」と「熱工学コンファレンス・プレセミナー」を統合して新たに企画された「熱工学コンファレンス・プレコンファレンスワークショップ」の第3回目を,平成27年10月23日(金)と24日(土)の両日にわたり,大阪府高槻市の山中にある関西大学高岳館において一泊二日の合宿形式にて開催いたしました.本ワークショップは熱工学コンファレンスの参加者を主な対象として学会前日に開催されることから「熱工学」に関するホットな話題を提供するとともに,活発な議論や意見交換の場を通して,部門の活性化と参加者同士の交流を図ることを目的としております.本年度のワークショップでは,大阪府の名勝として知られる摂津峡にもほど近い,丘陵地の自然環境に囲まれた雰囲気の中で,「バイオマスを中心とした再生可能エネルギー」をテーマに掲げ,各分野でご活躍の3名の講師の先生方をお招きし,下記の題目にてご講演いただきました(以下ご発表順).

・井田 民男 氏(近畿大学):「次世代バイオ・リサイクル燃料:バイオコークスについて」

・山根 浩二 氏(滋賀県立大学):「ドロップインバイオ燃料の現状と可能性」

・中尾 正喜 氏(大阪市立大学):「下水熱利用の動向と展望」

 今回のワークショップでは今後ますます重要性を増すであろう再生可能エネルギーのなかでも特にバイオマスに着目し,各講師の先生方には物質の三態である固体・液体・気体それぞれのバイオマス由来燃料について話題提供をして頂きました.
 最初のご講演は,近畿大学の井田民男先生から,次世代バイオ・リサイクル燃料として注目されているバイオコークスに関するご講演をいただきました.バイオコークスはほぼ全ての光合成由来バイオマスから製造可能な新しい国産の固形燃料であり,製鉄・鋳造炉で使用される石炭コークスの一部を代替することでCO2の排出抑制や化石燃料依存の緩和に資する新しい国産エネルギーです.開発者である井田先生には,バイオコークスの開発秘話や製造方法における工夫,海外展開を含めた現状と今後の展望について写真や経験談を織り交ぜながら分かり易く解説して頂きました.なかでも印象に残ったのは製造時の温度レベルについて当初は高温ばかり試していたのを,思い切って低温側に振ると成功したというお話です.翌日の人見氏(マツダ株式会社)の特別講演での「パラメータは大きく振る」のお話とも通じるものがあると感じました.
 続いて,滋賀県立大学の山根浩二先生からは,ドロップインバイオ燃料の現状と将来展望についてご講演頂きました.ドロップインバイオ燃料とは,既存の石油由来燃料であるガソリン,ディーゼル油,ジェット燃料と本質的に等価な機能を持つ炭化水素燃料であり,既存のインフラで「そのまま(drop-in)」使用できる燃料のことを指します.ご講演では石油系燃料とバイオ系燃料の性状の違いや製造過程についてご説明頂くとともに,特に最近注目されている微細藻類からのドロップインバイオ燃料の生産について,各種の微細藻類の性質や用途,培養方法や製造コスト,海外企業の取り組み(石油メジャーとベンチャーの提携など),日本における現状と課題などを初心者にも分かり易くご説明頂きました.なかでも微細藻類の培養において収穫直前に飢餓ストレスを加えると油分生産量が増すという面白い結果は参加者の興味を引いていました.
 最後に,大阪市立大学の中尾正喜先生より,下水熱利用の動向と展望についてご講演を頂きました.日本の下水熱利用は殆どが処理水の熱利用であり,利用箇所が処理場周辺に限定されているが,今後は下水管内を流れる未処理水(真冬でも17℃以上)を対象にした簡易・低コストな熱回収法が必要とのことで,海外(特にスイス)で見られる熱交換器を組み込んだ下水管の紹介など熱工学の観点からも興味深い内容でした.未処理下水による熱交換では生物膜の成長により熱通過率の劣化が問題になり,温度や地域特性の違いからも影響を受けることなど,下水熱用の熱交換器に特有の課題などが示されました.また,都市部での下水熱利用を推進するツールとして下水熱ポテンシャルマップの整備が進められているなど,下水熱の有効利用に向けた方策と展望について分かり易くお話頂きました.
 いずれのご講演でもCO2の排出抑制や省資源に資するバイオマスエネルギーの最新動向について分かり易く説明して頂き,参加者にとって大変興味深いものでした.それぞれの講演後の質疑では,参加者から多数の質問が上がっており,講師の先生方の丁寧なご講演のおかげもあり,とても理解しやすく,また興味を持って聞くことができたことの現れだと思われます.
 講演会終了後は立食形式での夕食となりましたが,講師の先生方にもご参加頂くことができ,参加者同士の交流を深めるだけでなく,講演中に聞くことができなかった点を含めて有意義な議論がなされていました.なお,今回のワークショップでは主に大学のクラブ・サークル合宿やゼミ旅行等に利用される大学セミナーハウスを会場として利用したため,利用規約上の制約が多くあり,夕食は学内の生協施設で取りました.このため,参加者の皆様には山間部の傾斜地に位置する広大なキャンパス内を10〜15分ほど徒歩で移動(というより登山)して頂くことになりましたが,季節や天候,美しい夜景(あるいは皆様の寛大なお心)にも恵まれて,大きな不満は(講習会委員の耳には)聞こえてこず,胸を撫で下ろす場面もありました.夕食後は本企画の恒例になりつつある技術交流会を和室にて開催しました.今回は若手の参加者も多く,参加者全員の自己紹介で大いに盛り上がりつつ互いに交流を深めることができました.
 最後に,今回のプレコンファレンスワークショップでは,ご講演を頂いた3 名の講師の先生方をはじめ,高松洋先生(熱工学部門長),中部主敬先生(前部門長),齊藤卓志先生(部門幹事),保浦知也先生(総務幹事),小倉辰徳様(日本機械学会熱工学部門担当),そしてご参加を頂いた皆様より,多大なご支援とご協力をいただき,大変有意義なイベントとして盛会のうちに終えることができました.至らない点も多々あったかと思いますが,この場をお借りして,ご参加いただいた23名の皆様に心より感謝申し上げます.

井田先生 山根先生 中尾先生
プレコンファレンス会場の様子 集合写真