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CO2の反応性を活用したOxy-fuel combustion (O2/CO2 combustion)の高度化

渡部 弘達




東京工業大学 助教
大学院理工学研究科 機械制御システム専攻
watanabe.h.ak@m.titech.ac.jp

1.はじめに

 燃焼プロセスは,エネルギーの基盤を支えていると言っても過言ではない.とくに,石炭燃焼プロセスは,日本の一次エネルギーの約1/4を供給しており[1],エネルギーセキュリティの上でも重要や役割を果たしている.しかしながら,単位発電量当たりのCO2排出量が他の発電システムと比較して多い.そこで,石炭燃焼システムからCO2を回収する方式として,O2/CO2石炭燃焼(石炭酸素燃焼,Oxy-fuel coal combustionとも呼ばれている)とCCS(Carbon Capture & Storage)の組み合わせが注目を集めている(Figure 1).空気燃焼中の排ガスに含まれるCO2濃度は14%低く,化学吸着法などでCO2を分離・回収する必要があり,大きな総合効率の低下を伴う.しかし,O2/CO2燃焼では,排ガス中のCO2濃度が90%以上に濃縮され,液体CO2回収が分離過程なしで可能となる [2,3].2010年8月,米国DOEはO2/CO2燃焼とCCSの組み合わせが最も経済的であるとして,国家プロジェクトFutureGen 2.0への移行を表明した[4].さらに,カライド酸素燃焼プロジェクトに代表されるように,世界各国でO2/CO2燃焼とCCSの統合プロジェクトが進められている.
 O2/CO2燃焼の既往の研究として,大量の排ガスを再循環するシステム効果により,NOx転換率が従来の燃焼方式に比べて,1/4-1/7程度に低減し,さらにSOxの低減も可能になるといった成果が報告されている[5,6].また,O2/CO2燃焼では,高濃度CO2雰囲気下で燃焼反応が進行するといった特徴があり,従来の空気燃焼とは大きく異なる.まず,NO2とCO2では,熱容量,密度,粘度,拡散係数といった物性値が異なる.さらに,ふく射物性値も異なる.近年,O2/CO2雰囲気とO2/N2雰囲気における燃焼特性を比較した,さまざまな実験や数値シミュレーションが報告されている [7-10].また,物性値の違いに加えて,CO2はN2よりも反応性が高く,CO2 + H → CO + OHといった素反応を通して,化学反応に積極的に関与することが報告されている [11-14].さらに,気相反応だけでなく,チャーガス化反応のような気固反応にも,CO2は関与する.
 著者らは,現在,CO2の反応性に起因するO2/CO2燃焼の特異的な現象解明と,それを活用した燃焼の高度化に取り組んでおり,本稿では,CO2の反応性を活用した極低NOx化 [13,14]と炭酸塩の生成 [15]について紹介する.

2.CO2の反応性を活用した極低NOx

 NOxの生成メカニズムを詳細に検討するため,まず,気相反応のみで検討を行った.Figure 2に実験で用いた平面火炎リアクターを示す.実験には,Air,O2, CO2, CH4, NH3/Ar (Ar Base)を使用している.この平面火炎リアクターは,二段燃焼を模擬するため,二次ガスを吹き込むことが可能になっている.二段燃焼を行う場合は,全体の空気比(λtotal,酸素過剰率)を1.2とし,一次空気比(λprimary)を0.6, 0.65, 0.7と変化させ,NO転換率を測定した.さらに一次空気比(λprimary)を同様に変化させて一次燃焼における窒素化合物 (NO, HCN, NH3)の排出特性を検討した.

 Figure 3に平面火炎リアクターにおいて二段燃焼を行った際の写真を示す.まず,下部から,1次ガスを導入し,燃料過濃条件下で,平面火炎を形成する.その後,二次ガスを導入し,完全燃焼させる.二次ガス導入用のノズル近傍で,二次火炎が形成されていることが分かる.二段燃焼時におけるNOx転換率をFigure 4に示す.一次空気比の減少に伴い,O2/CO2燃焼ではNOx転換率が著しく減少し,λprimary = 0.6のとき,空気燃焼よりもNOxが40%程度低減している [13].

 二次ガスを吹き込まない一段燃焼における排出NOx, NH3, HCN濃度をFigure 5に示す.空気燃焼 (Fig. 5(a)),O2/CO2燃焼 (Fig. 5(b))ともに一次空気比の減少に伴いNOx転換率は減少しているが,空気燃焼の場合は,HCN, NH3濃度が急激に増大している.別途行った詳細化学反応解析により,O2/CO2燃焼は空気燃焼と比較して,CO2 + H → CO + OHの反応速度が大きくOHラジカルが多量に生成されることが明らかになっている [11-14].つまり,O2/CO2燃焼では,多量のOHラジカルにより二段燃焼時にNOxに転換されやすいNH3やHCNが燃料過濃領域において分解されていると考えられる.したがって,O2/CO2燃焼では,一次空気比を低くした場合でも,NH3, HCNの発生が抑制され,空気燃焼よりも低いNOx転換率を実現できたと考えられる [13].

 Figure 6に反応解析により得られたNH3 (Fuel-N)の反応経路を示す.反応解析には,CHEMKIN-PROを使用し,修正GRI-Mech 3.0を使用している [14].簡略化のため,最終生成物であるNOとN2に注目し,λtotal = 0.8としている.λprimary = 0.7のとき,NH3はほとんど分解されるため,NHの消費反応が低NOx化において重要となり,OHラジカルは,NHの消費反応において,HNO,NOの生成を促進させる.それに対し,λprimary = 0.6のときは,一次燃焼領域においてNH3の分解が十分に進まないため,NOの還元剤であるNHを生成することが重要となる.この場合,OHラジカルはNH3,NH2の分解を促進するため,NHの生成を促進させる.つまり,OHラジカルは,HNO生成よりも,NH生成を促進するため, CO2の反応性が低NOx化に寄与する [14].

3.CO2とアルカリ金属の反応による炭酸塩の生成

 石炭やバイオマスといった固体燃料の多くは,灰分を含む.灰分は,炉壁に付着し,運転操作に影響を与えると同時に,熱分解反応やチャーガス化反応の触媒あるいは阻害剤として働く.ここでは,熱天秤を用いて,固体燃料中の灰分,とくにアルカリ金属とCO2の反応性について検討を行い,固体燃料に灰分の多いリグニンを使用した.今回使用したリグニンは灰分が18.2 %と多く,かつアルカリ金属であるNaやKが多く含まれている.イオン交換樹脂によりアルカリ金属を除去したリグニンの熱分解実験も行った.リグニンのイオン交換処理には,アンバーライト200CT (オルガノ)を使用した.イオン交換処理により,リグニン中の灰分は3.2 %まで低下した.本実験では,リグニン,もしくはアルカリ金属を除去したリグニンをCO2もしくはAr雰囲気下で1Ks-1の昇温速度で加熱する.本研究では,ガス化剤でもあるCO2を雰囲気ガスとして熱分解実験を行う.熱分解プロセスのみを検討するため,373Kから,ガス化反応が顕著に進行しない1073 Kまで連続昇温を行い,熱重量曲線を得た.1073 Kで加熱を停止した後,得られた炭化物の官能基構造をFT-IR(JEOL, JIR-SPX200)を用いてスペクトル測定を実施した.
 Figure 7(a)にリグニンの熱重量曲線を示す. CO2雰囲気下で熱分解を行うことで得られたチャーの方が,Ar雰囲気下で得られたチャーよりも10%程度,重量が増加している.Fig. 7(b) にイオン交換処理を行ったリグニンの熱重量曲線を示す. Ar,CO2雰囲気下にかかわらず,ほぼ熱重量曲線は一致しており,イオン交換処理を行ったリグニンにおいては雰囲気ガスの影響はほとんど表れていない.このことから,灰分に含まれるアルカリ金属とCO2が反応し,塩が生成している可能性が示されている.


 Figure 8に炭酸ナトリウム(Na2CO3)とリグニンチャーのFT-IRスペクトルを示す.炭酸塩(Na2CO3)のピークを表す波数1450 cm-1および880 cm-1が図中の帯で示してあり,CO2雰囲気下で生成されたリグニンのチャー(CO2)では,顕著にそのピークが現れている.以上の結果から,リグニンをCO2雰囲気下で加熱すると,アルカリ金属がCO2と反応し,炭酸塩が生成されることが明らかになった [15].


 固体燃料中における炭酸塩の生成は,熱分解過程やチャーガス化過程に影響する可能性がある.また,炉壁に付着した灰分がCO2と反応し,灰付着挙動に影響を与える可能性も示唆されており[16],さらなる検討が必要である.

4.おわりに

 Oxy-fuel combustionでは,大量の排ガス循環に加えて,高濃度CO2雰囲気下で燃焼反応が進行するという特異性がある.本稿では,CO2の反応性により生成されるOHラジカルを低NOx燃焼に活用するための条件を示し,二段燃焼を適用することでO2/CO2燃焼におけるNOx転換率を空気燃焼よりも40%程度低減できることを明らかにした.さらに,灰分中のアルカリ金属とCO2が反応し,炭酸塩が生成されることを示した.このように,Oxy-fuel combustionでは,空気燃焼とは異なるさまざまな現象が起きている.このような特異的な現象を活用し,従来の空気燃焼では実現できなかったクリーンコールテクノロジーの開発につなげることを考えつつ,今後も研究を進めていきたい.

謝辞

 本研究の一部は,科学研究費補助金基盤研究(A)(No. 21246035)および電源開発株式会社の支援を受けており,東京工業大学 岡崎健教授と当時,大学院生であった山本潤一郎氏,丸毛孝氏,そして現在,大学院生である下村聖実氏と協力して行ったものです.また,FTIR分析では,東京工業大学大岡山分析支援センターの協力を得ています.ここに記して謝意を表します.

参考文献

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3. B. J. P. Buhre, L. K. Elliott, C. D. Sheng, R. P. Gupta, T. F. Wall, Oxy-fuel combustion technology for coal-fired power generation, Progress in Energy and Combustion Science 31 (2005) 283-307.
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