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有機系廃棄物と酸化鉄混合体の反応特性

植木 保昭




名古屋大学 助教
エコトピア科学研究所 エネルギー科学研究部門
ueki@esi.nagoya-u.ac.jp

1.はじめに

 現在,日本国内では年間約5000万トンもの一般廃棄物が排出されており,その約8割が直接焼却処分され,多くのCO2を排出し,地球温暖化に加担しているのが現状である.この一般廃棄物の約50%(重量比)は炭素と水素を多く含有する有機系廃棄物であり,石炭などの化石燃料の代替原料としてのリサイクルの可能性が示唆されている.
 一方,日本国内の鉄鋼業では還元材として石炭を大量に使用しているため,鉄鋼業でのCO2排出量は国内排出量の約17%を占めている[1].その約70%が製銑工程によって発生しており,製銑工程におけるCO2排出量削減が急務である.しかし,鉄鋼業において石炭大量使用の状況下でのCO2排出量削減には限界があり,更なる大幅な削減を目指すには石炭を使用しない新しい製鉄技術の開発が求められている.このような背景から,CO2削減の抜本的解決策として,製鉄プロセスにおける石炭代替原料としての有機系廃棄物の有効利用が期待されている.この有機系廃棄物の有効利用が可能になると,鉄鋼業における石炭使用量が削減でき,国内全体でのCO2排出量が削減できる.
 そこで著者らは,ポリエチレンとゴミ固形化燃料などの有機系廃棄物が炭材内装塊成鉱の炭材,つまり還元材として有効利用できるかどうかを検討している.本稿では,有機系廃棄物と酸化鉄で作製した混合体試料を不活性雰囲気で加熱した場合の酸化鉄の反応特性について検討した結果を紹介する.

2.実験方法

 本実験ではポリエチレン(PE)とゴミ固形化燃料(RDF)を還元材として使用した.PE試薬は粒子直径−425µm,RDFは粒子直径−600µmに粉砕したものを実験に用いた.Table 1にPE試薬とRDF粉の元素分析と工業分析の結果を示す.PEは水素と炭素のみから成り,RDFは酸素と固定炭素,灰分を含有している.
熱分解実験では,約0.39gのPE試薬を直接実験試料として使用し,RDF粉は約1.5gを直径約15mm,高さ約7mmのブリケットに加圧成型したものを用いた.還元実験では,Table 2に示したような重量でPE試薬やRDF粉とヘマタイト試薬を混合した.表には廃棄物および酸化鉄中の酸素と廃棄物中の炭素および水素のモル比も示した.PE試薬とヘマタイト試薬の混合物(試料H-PE)は直径約15mm,高さ約7mmに,RDF粉とヘマタイト試薬の混合物(試料H-RDF)は直径約15mm,高さ約15mmに加圧成型した.
 実験装置の概略図をFig. 1に示す.反応管は内径35mmのアルミナ製を使用し,炉内温度はPID温度制御装置で制御した.試料は白金線で作製した試料ホルダーとステンレス線を用いて反応管内の所定温度位置に吊るした.ガス流量はマスフロコントローラーにより制御した.試料をステンレス線によって熱天秤に吊るし,実験温度に設定した均熱帯に降下させ反応を開始させた.ガス流量3.33×10-5m3/sのArガス雰囲気下で実験を行った.実験温度は1000℃,1100℃,1200℃,1300℃とした.電気炉より排出された生成ガスはフィルターと冷却塔を経由して四重極質量分析計へ導入した.フィルターにより生成ガス中に含まれる煤などの微細粒子を,冷却塔により生成ガス中の水蒸気などの凝縮液を取り除いた.実験では熱天秤により重量変化を,湿度計により排出ガス中の水蒸気量を,四重極質量分析計により排出ガス中のH2,CO,CO2,CH4濃度を測定した.実験は重量変化が認められなくなった時点で終了とした.還元実験後,試料の還元率を求めるために化学分析を行なった.


3.実験結果および考察

3.1 有機系廃棄物-酸化鉄混合体の反応挙動

 試料H-PEおよび試料H-RDFの1000℃と1300℃での重量変化率曲線をそれぞれFig. 2とFig. 3に示す.ここで示した重量変化率は,重量変化量を実験前の試料重量から鉄および灰分の重量を引いた重量で割った値である.1000℃では試料H-PEの重量変化率は約0.6で停滞したが,試料H-RDFの重量変化率は約0.95まで達した.この時の試料H-PEと試料H-RDFの最終還元率はそれぞれ40%と93%であった.1300℃では試料H-PEの重量変化率は約0.8で停滞したが,試料H-RDFの重量変化率は1.0に到達した.この時の試料H-PEと試料H-RDFの最終還元率はそれぞれ63%と100%であり,温度上昇にともない両試料とも最終還元率が増加した.このように,試料H-PEでは反応が途中で停滞したが,試料H-RDFでは反応がほぼ終了した.また,最終還元率が試料H-PEよりも試料H-RDFの方が高くなっており,このような違いは有機系廃棄物と酸化鉄混合体の反応挙動が有機系廃棄物の種類に依存していることを示している.


3.2 熱分解実験と還元実験での転換率の比較

 1000℃と1200℃でのPEおよびRDFの熱分解時と試料H-PEおよび試料H-RDF還元時における各生成物への水素の転換率をFig. 4に示す.図中の‘others’は未測定の高次の炭化水素ガスやタール,残留チャー,煤などへの転換率を示している.PEおよび試料H-PE の場合,すべての温度において H2への転換率は熱分解時よりも還元時の方が大きく,また温度上昇とともにH2への転換率は大きくなり,1200℃で60%に達した.また,還元時にH2Oが発生していることから,(1)式に示すH2による酸化鉄の還元が生じていることが確認された.しかしながら,温度上昇にともないH2Oへの転換率は減少している.この温度上昇にともなうH2の増加とH2Oの減少は,熱分解により生成した固体炭素によるH2Oの改質反応,すなわち(2)式で示す水性ガス反応の活発化によるものと考えられる.

FeOn (s) + H2 (g) = FeOn-1 (s) + H2O (g)   (1)
H2O (g) + C (s) = H2 (g) + CO (g)       (2)

 RDFおよび試料H-RDFの場合,熱分解と還元によるH2への転換率はほとんど同じであり,それらは温度上昇にともない増加し,1200℃で50%以上に達した.試料H-PEと同様に,H2Oへの転換率が熱分解時より還元時の方が大きいことから,(1)式のH2による酸化鉄の還元が生じていた.また,PEの場合と同様に,1000℃から1200℃への温度上昇によりH2Oへの転換率が減少しており,水性ガス反応(2)式によるH2OのH2への改質が温度上昇にともない促進されたことによるものと考えられる.


 1000℃と1200℃でのPEおよびRDFの熱分解時と試料H-PEおよび試料H-RDF還元時における各生成物への炭素の転換率をFig. 5に示す.PEおよび試料H-PE の場合,PEの熱分解では,温度上昇にともない‘others’への転換率は増加し,CH4への転換率は減少した.このCH4への転換率減少の理由は,温度上昇によりCH4のH2と炭素への分解が促進されたためである.試料H-PEの還元では, ‘others’とCH4,CO2への転換率は減少した.しかし,COへの転換率は増加し,1200℃で約60%に達した.これらの結果は,CH4の分解により生成した析出炭素が水性ガス反応(2)式と(3)式に示したブドワー反応によって消費されたことを示している.

CO2 (g) + C (s) = 2CO (g)            (3)

 試料H-RDFの還元時のCOへの転換率は1200℃で60%以上に達した.また,全ての温度において,試料H-RDFのCOへの転換率は試料H-PEのCOへの転換率より大きかった.これはブドワー反応(3)式で消費される固体炭素,つまり試料H-PE中の析出炭素より試料H-RDF中のチャー生成量が多いためであると考えられる.さらに,このチャーによるCOへの改質が(4)式に示したCOによる酸化鉄の還元反応を促進するため,PEよりもRDFを還元材として使用した方が高い最終還元率が得られる.

FeOn (s) + CO (g) = FeOn-1 (s) + CO2 (g)   (4)


4.おわりに

 ポリエチレンおよびゴミ固形化燃料といった有機系廃棄物と酸化鉄混合体の高温不活性雰囲気下での反応特性を実験的に検討したところ,有機系廃棄物の熱分解によるH2への転換率と有機系廃棄物-酸化鉄混合体の還元によるH2への転換率はほとんど同じであるが,還元によるCOへの転換率は熱分解によるCOへの転換率よりも大きく,還元材として有機系廃棄物を使用する場合,高い最終還元率を得るためには,チャーを多く生成する有機系廃棄物が適していることが分かった.以上のことから,酸化鉄の還元材として有機系廃棄物を利用することが可能であるものと考える.

参考文献

1. 1. Ariyama, T. and Sato, M., ISIJ Int., 46: 1736-1744 (2006).