プレコンファレンス・セミナー報告

東京大学生産技術研究所
鹿園 直毅

 熱工学部門では,去る平成24年11月16日(金)に熊本大学くすの木会館において,熱工学コンファレンス2012プレコンファレンス・セミナーを開催致しました. 本セミナーには78名の参加者が集い,熱に関わる新技術の企画や基礎研究,および新しい熱技術へのニーズなどについてご講演頂きました. 半数弱の参加者が産業界からであったのも特徴的で,熱研究への関心が近年むしろ高まってきているのではないかと感じられました.
 最初のご講演者である叶_戸製鋼所の猿田浩樹氏からは,「小型バイナリー発電機の商品開発」というタイトルで,昨年同社から発売された60kWの小型バイナリー発電システムについてご講演頂きました. 100℃以下の温水を熱源とした発電でありながら,40万円/kWというこの容量では超低価格な製品を開発できたこと,しかも企画から販売まで約2年という非常に短い期間で開発できたということは大きな驚きでした. 量産技術を徹底的に転用するなど,企画時から事業を強く意識していたからこそ,このような機器が開発できたのだと思います.
 二件目のご講演は,潟fンソーの八束真一氏から,「液体ピストン蒸気エンジンの提案」というタイトルで,往復動を利用した新たな蒸気機関のご紹介がありました. 本エンジンは単一容器に単一のピストンをつけただけの非常に簡単な構成で,高温部と低温部を気液界面が往復することで仕事を取り出す新しい形式の蒸気エンジンです. 高温部300℃,低温部90℃の温度差で12.4%の図示効率が得られているなど,実力も大したものです.誰にも思いつきそうでありながら誰も取り組んでこなかったまさにコロンブスの卵のような技術ではないかと思います. 構成はシンプルですが,非定常の振動二相流という現象は非常に難しく,従来の伝熱の体系では設計には必ずしも十分ではないことなどが紹介されました. このような新しい機器には,多くの伝熱研究のニーズが潜んでいると言えます.

 最後のご講演は,竃L田中央研究所の志満津孝氏から,「自動車における熱技術」とのタイトルで,自動車というクローズドでしかもダイナミックレンジの広い複雑システムにおける熱マネジメントの難しさについて,判りやすく解説頂きました. 熱を蓄えて送ることで時空間的な熱需給の不一致を解決できれば実効燃費の大きな改善につながることや,量的なバランスだけでなく温度域の不一致も問題であることなど,厳しい使用条件である自動車ならではの課題についてお話し頂きました. ハードルは高いですが,このような極めて高い技術目標とコスト目標が達成できれば,他の分野へも大きな波及効果が期待できると考えられます.  これらの新しい挑戦に関するご講演を通じて,新しい熱研究テーマのヒントを得た参加者も多かったのではないでしょうか. このような機器側からの新しいニーズと,基礎研究から産み出される新しいシーズ技術を融合させる努力を継続することこそ,将来の熱工学の発展に繋がるものと考えます.