部門の成長と成熟
President-Elect, IEEE RAS
谷江和雄(産総研)
先日オフィスを移動した際,古い書類の中から,第1回ロボ・メカ講演会で参加者に行った所属学会アンケートの集計ファイルを発見した.講演件数119件に対し,参加者590名,所属学会内訳は,機械学会509名,計測自動制御学会109名,日本ロボット学会91名となっていた.部門制移行に伴い,初代ロボ・メカ部門(当時ロボティクス部門)運営委員長を引き受けたのは今から約15年前である.立上げ期の部門は多くの不安要素を抱えていた.日本ロボット学会の発足・急成長期で,後発でロボットの部門を立上げる意義を疑問視する人が多かった.部門長選考も難航し,若輩の私にお鉢が回ってきた.こうした状況下で上記の結果は励みになり,部門の発展を確信させるものだった.専門学会員ではないがロボットを知りたい,使いたいなどの関心を持つ人が学会内に多数いて,こうした人とロボットの専門家とが融合する学会内組織を構築することが,部門がユニークに生きて行ける道と考えていたが,アンケート結果はそれが可能なことを裏付ける講演件数,聴講者数,機械学会員数の比率を示していた.
近年,産業に結びつく研究が少ないとの声を聞く.講演会での発表者と参加者の比率はこの問題を考える指標の一つになると思っている.研究成果の産業移転は,研究する人とその成果を買う人(ユーザ)の間で成立するが,発表者に比して参加者の比率が高い講演会を持つ分野は,ユーザ人口が多く,シーズが何かに使われる可能性が高いことを意味する.分野が成熟し,研究に新鮮味が乏しくなると,この比率は限りなく1に近づく.そのとき分野・組織は,研究のための研究に勤しむ研究者だけの”Small World”集団に陥る.多くのロボット技術分野の講演会は現在1.5から2.0の間ぐらいにあり,一頃に比べてSmall World化が進行しているように見える.ちなみに第1回のロボメカ講演会は5.0弱だった.
この原稿は,私がIEEE Robotic and Automation Societyの次期President(2004年―2005年)に選出されたことを受けて,その抱負をということで依頼された.IEEE RASの講演会も発足頃の上記比率は4.0位だったが,最近は1.5近くになり,危機感を持つ人も少なくない.在任期間中は,この比率を改善すべく,研究者のみならず,成果を活用するユーザとして分野に貢献する人々にも一層のメリットが感じられる組織にする努力をしたいと考えている.
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2002 日本機械学会ロボメカ部門
Last Update :
2002/4/15
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: 日本機械学会ロボメカ部門広報委員会