企業の研究・大学の研究


料理と複合材料

森きよみ(拓殖大学)

 大学生の工学離れが心配されるようになってから、10年以上は過ぎたでしょうか。私の勤務する拓殖大学の機械システム工学科においても、機械工学に興味を持ってくれない学生が多いように思います。大学4年生になって、卒業研究のために研究室に配属されてきた学生さんは、それまで研究などとは全く縁がなく、高校時代の延長のまま、単位を取るために授業を受けていたわけです。大学受験という目標が、大学卒業という目標に変わっただけです。しかし、卒業研究では、机に向かって座っていても何も教えてもらえません。初めて研究室に来た学生達は皆不安そうです。
 卒研の学生達が研究室に慣れるまで、お菓子を食べながら茶飲み話をすることにしています。助手の私は、学生実験や設計製図の演習でしか学生と顔を合わせていません。まず、異性である私に慣れてもらうという意味もあります。そんな時によく話題にするのが、“料理”です。
 私の研究テーマは“接着接合の強度評価”ですが、対象とする複合材料は料理とよく似た性質のものだと思います。ファミコン世代の若者は、自然界にある木や石や身の回りの道具でおもちやを作って遊んだ経験がありません。「材料力学は、工業製品やその材料がどのような力に耐えられるかを知るための学問だ。」などと説明しても、全く興味をもってくれませんが、グルメの話には興味があります。アウトドア派の学生には、バーベキューの話で誘います。「鉄板に肉が焦げ付かないようにするには、熱く熱した後に油を引くと鉄板に油が馴染むでしょう。」接着に欠かせない“ぬれ”の話はこう切り出します。「クッキーは硬いけれども落とすと壊れ易い、カステラは柔らかいけど割れ難いでしょう。」脆性と延性、応力速度の話は、こんな風です。話をしている内に、学生達も自分の考えを話せるようになり、配属後1か月程経ってから、興味に合わせて卒研のテーマを設定するように心がけています。1年後には、何かをやり遂げた充実感に目を輝かせ、「この1年間は3年までの学生生活と全く違う楽しい学生生活だった。」と学生が言ってくれることを密かに期待しながら、主婦として、2児の母として、研究者として、毎年新しい料理を開拓中です。

つくばの研究生活

高橘 淳(物質工学工業技術研究所)

 つくば研究学園都市は東京から一時間強、筑波山の裾野に創られた研究のための街です。各省庁付属の50以上の研究所と、その回りに多くの民間研究所が集まっています(最近金材研が移転してきて材料分野はまたにぎやかになりました)。工業技術院は通産省に属する組織で、全国に15の研究所があり、そのうちの8研究所がつくばにあります。私の所属する物質工学工業技術研究所(物質研)は再編により平成5年1月からスタートした研究所で、物質のことなら何でもやっています(機械系よりも化学の人の方が多い)。約350人の研究職員と約50人の外国人研究者に加え、卒論や修論を書きに来ている学生たちで活気のある研究所です。(以上に関連する情報の詳細はインターネットでhttp://www.aist.go.jpあたりからご覧下さい)
 さて、つくばの研究所は東京から少し離れている点を除けば我々研究者にはとても居心地の良いところです。安くて広い公務員宿舎の回りにはたくさんの公園と遊歩道があり、職場には5分からl0分という近さです。職場は週休2日のフレックスということになっていますが、基本的には個人の研究成果のみが問われますので、自分のペースで自由に時問を使うことができます。
 研究は何をやっても構わないのですが、通常は何らかの国家プロジェクトに参画して研究費をもらい、装置や試験片やアルバイト費など自分に必要なものに使います。私の現在の研究テーマは次の通りです。
超耐環境性先進材料(C/C複合材料の超高温特性や破壊強度を調べてます)/知的構造システム(光ファイバでいろいろ遊んでいます)/高分子系複合材料のリサイクル(経年劣化の加速試験法などを検討してます)/再利用指向複合材料構造体(易分解機能をもつ複合材料などを作ろうとしています)/データベース(LCA手法を取り入れた複合材料の総合評価法を考えており、近日関連ホームベージを公開予定です)。いずれも「複合材料・構造体の強度評価」をベースに研究を進めており、それ自体は大変楽しんでいるのですが、参加する学会や委員会の分野が年々機械系から外れてきており、人の話が分からないことと名前がなかなか覚えきれないのにストレスを感じています。

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