小豆畑 茂[(株)日立製作所 フェロー] |
このたび久保司郎前会長の跡を受け,日本機械学会の第93期会長を拝命いたしました.日頃の機械学会の活動の中に歴代の会長や諸先輩の偉業が潜み,これに触れるにつけ会長職の重さを痛感いたします.これまでの会長の業績を鑑として,職務を果たすべく努力いたします.昨年度は筆頭副会長として政策・財務審議会にて本会の課題と対策を審議いたしました.この活動内容の要約報告を以って就任の挨拶に代えます.
審議会は2014年5月に組織され,2015年2月後半の答申書作成までの約10箇月間活動しました.先ず本会の運営上の現状の課題とその解決に向けたこれまでの取り組みを把握し,次に提言すべき施策の検討に移りました.また必要な活動の抜け落ちを防ぐために10年後の日本機械学会のあるべき姿を描き,これに到達する為の直近の活動内容のまとめを目標としました.近年,長期的視点から本会の将来を述べた文書としては創立100周年時にまとめられた「第二世紀将来構想」があり,その実施計画書に記載の目標の達成の有無と構想発表後に新たに起きた潮流への対応が審議会での議論の始まりでした.
このような観点から改めて検討すべき課題を整理しても,浮き彫りになったのはこの数年間継続して審議されて来たものが大半であり,その解決案の具現化には今年度以降も検討が要ります.過去の会長挨拶を拝読すると,会員減少と財政健全化の対策が繰り返し指摘されてきたことが分かります.当然,これまで幾つかの手が打たれてきましたが,これらは残念ながら未だ完全には解決されていません.会員は1996年の45,733人を頂点に,これ以降減少を続け,現在は35,407人と20年間で1万人減少しました.特に30歳代の企業の若手技術者の会員数が40歳代後半と50歳代の60%であり,この状況が続くと20年後には企業に所属する会員は現在の半数になります.本会は若手技術者に魅力のある学会に変わることが喫緊の課題です.昨年度実施した限られた数の若手技術者からの意見聴取では,参加意欲の湧く講演会,会員であるが故に得られる技術情報,会員の交流の活性化が求められました.
ふたつめの財政健全化も重い課題です.2007年度から2012年度までの5年間で正味財産が2億円減少しました.2013年度,2014年度は改善の兆しが見えますが,財務体質は本質的には変わっていないと考えています.昨年度は財務理事の方々による会計の滝チャートによる「見える化」が財務状況の理解を容易にしました.今年度は部門や支部の活動や事業の活性化の観点から活動の改善に向けて更なる検討を加え,財政の健全化に処する案を策定します.
上記のふたつの課題は本会の活動の結果であり,活動の見直しが必要です.特に,2年後の2017年は日本機械学会創立120周年であり,これを節目に本会の新たな方向性を示す諸施策が実行されることを期したいと考えます.このために,今年度は以下に示す4項目を集中的に検討します.
(1)部門活動の更なる活性化
部門活動が本会の基盤であり,この更なる活性化を図ります.イノベーション創造には,今後益々技術の先鋭化と多様な技術の融合が求められます.幅広い領域を内包する本会は技術による社会のイノベーションを誘導できる潜在能力を有します.本会の強みである新融合領域などの新しいテーマを先導するのに,柔軟でより活発な部門運営が求められます.
(2)本会の魅力度向上
魅力度向上のためには多くの施策を打つ必要があります.例えば講演会ですが,年次大会の有料参加者は会員数の6%であり,この3年間をみると2160名(2012年),2011名(2013年),1994名(2014年)と減少しています.特に,企業に所属する人の参加は参加者の10%以下です.年次大会も含め,講演会は企業に勤める技術者の興味を更にかきたてるにようになるべきです.講演会は情報収集,会員の交流のために重要な行事であり,この充実が必要です.特に若手技術者の諸行事への積極的参加の動機付けが求められ,本年度は彼ら/彼女らの意見聴取とこれを反映できる仕組みを構築します.
(3)会員に対する情報サービスの向上
会員に対する情報で最も価値の高いのは学術誌です.これは一昨年度に改革が実行されたので,その成果が期待されます.本会は定期的に発行する会誌以外に多くの技術情報を有し,社会に提供しています.会員にとって質の高い有益な情報の構築はこれからも継続するのと同時に,これらの情報は,例えば,携帯端末のような遍在する通信媒体から容易に入手できるようにします.会誌については昨年の8月号からPDF版を学会のウェブサイトから見えるようになり活用いただいています.英文サイトの充実も含めて新たな情報サービスの提供計画を策定します.
(4)グローバル化の推進
グローバル化については昨年度の理事会でも多様な意見があり,会員が共有する目標が明瞭ではありません.それでも,国際的に孤立した学会になることを是とする意見は少ないと思います.関連分野の最先端の情報が世界から集まり,またこれを世界へ発信できる情報ハブとして本会が機能する学会になるには,道は遠い状況です.グローバル化の指標の一つは外国籍会員数です.世の中がグローバル化する中で本会の外国籍会員数は550名,全体の1.5%であり,この状況は10年間変わっておらず,外国の研究者の本学会の認知度も高くありません.現状打開の第一歩は,本会が発信する情報の英文化の促進と国内にいる留学生や外国籍研究者・技術者の取り込みです.まず,2015年度より英文サイトの充実,講演会での英語セッションの増設,及び国内にいる外国籍会員の増強に取り組みます.グローバル化の観点から本会の目指す姿を描き,そこへ向けての検討を開始します.
政策・財務審議会の活動の中で気付いたのは施策審議の継続性と効率です.本会では会長・副会長(任期1年),理事(任期2年)が短期間で交替します.会長方針は毎年変わり,理事会は中長期的な検討が継続され難い組織です.未解決の課題は申し送り事項として引き継がれますが,半数の理事は毎年交替になるので,理事は課題理解のためのデータの再調査,過去の議論の繰り返しを余儀なくされます.理解に要する時間が多くなる分,審議の時間が圧縮され,効率が低くなります.「第二世紀将来構想」で出された筆頭副会長制は施策の継続性を担保するものであったことを踏まえると,この制度を更に機能させるための仕組みが必要です.まずは,本会の中長期ビジョンを会員が共有する必要があり,昨年度策定した「10年後の姿」を共有ビジョンとして会員の皆様に公開します.これは筆頭副会長が中心となって毎期見直すことでより良いものに仕上げてゆき,その達成計画を翌年度の活動計画につなげることで中長期的な施策が継続されると考えます.
昨年度の政策・財務審議会が策定した「10年後の姿」は,会員が会員であることの利点を享受し,また会員であることが社会にも価値を認められ,会員であることを誇りに思える学会になるのが目標です.この目標に一日も早く近づくために,会員の皆様のご指導,ご協力をお願い申し上げます.
(2015年4月17日 定時社員総会あいさつより)