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【技術紹介】回転自在に動く球面圧電モータ
株式会社東芝研究開発センター 機械・システムラボラトリー
高橋 博
1. はじめに
球面圧電モータは、ジンバル機構やジョイント機構などの複雑さを解消でき、小型で多自由度のダイレクトドライブが可能であることから、近年、研究が盛んに行われている[1][2]。図1に代表的な従来の多自由度駆動機構(カメラ駆動デバイス)を示す。上部固定部にパン軸があり、このパン軸の可動部にチルト軸が搭載され、チルト軸の可動部にカメラが搭載された構成で、パン軸とチルト軸を用いて全方位のカメラ画像を取得することができる。しかし、高速駆動制御や小型化設計を行う際には、以下に示す課題があった。
- 固定回転軸(特異点)が有り、特異点回避操作(制御系工夫)が必要
- パン軸にチルト軸が搭載された積上げ構成のため、駆動特性は(パン軸1チルト軸)で、小型化に不利
球面圧電モータは、駆動軸を直列に積上げて多自由度化した従来構造に比べて、以下の特長を有している。
- 固定回転軸(特異点)が無く、最短軌道で駆動できる
- 多自由度ダイレクト駆動により、特性の同等性が図られ、小型化に有利
筆者らは、これまでに2自由度制御型球面圧電モータの試作実験により、0.01deg(3s)の位置決め精度を実現した[3][4]。さらに、3自由度球面圧電モータの開発では、3自由度で回転駆動するための駆動方法とセンシング方法を新たに提案し、3自由度位置決め特性などを含む基礎特性を明らかにした[5][6]。本稿では、これらの概要を紹介する。
図1 代表的な従来の多自由度駆動機構
(カメラ駆動デバイス)
2. 構造と駆動原理
図2に球面圧電モータの基本構成を示す。球面圧電モータの技術課題の一つに、可動範囲の拡大がある。従来、与圧機構や回転支持機構を配置すると、可動範囲が狭くなる欠点があった。そこで、可動範囲が広く、高精度な位置決めが可能な球面圧電モータの開発を目的に、圧電素子と電磁石を組合せた新しいタイプのモータを試作した。本モータは、積層圧電素子を交差配置してなる3組の駆動ユニットと吸引与圧用の磁石からなり、ロータ(鋼球)を多自由度で駆動することができる。駆動ユニットは、2組の圧電素子を直交配置してなる2次元駆動ユニットと、3組の圧電素子をトラス構造に組み上げた3次元駆動ユニットの2種類を製作し、前者は2自由度制御型球面圧電モータに、後者は3自由度球面圧電モータに使用した。これら駆動ユニットは、図2のZ軸を中心として周方向に120deg等配にてモータ本体内側に3ヶ所設置されている。ロータは3組の駆動ユニットとの接触点(駆動力を伝達する点;先端チップ)で摩擦保持され、駆動ユニットの作動により先端チップを楕円運動させ、3組の駆動ユニットの協調動作によって任意の方向に回転駆動される。図3に駆動ユニットによる摩擦駆動原理を示す。直交配置する圧電素子に位相差90degの正弦波電圧を印加すると、先端チップは図3に示す状態@〜Cの繰り返し動作により楕円運動となる。この楕円運動の状態A→B→Cの過程で先端チップはロータと接触し、ロータは先端チップとの摩擦力によって回転駆動力を得る。本モータ構成によれば、磁気吸引力による非接触与圧機構の採用と回転支持ガイド部を新たに必要としない支持構造により、駆動ユニット以外での摩擦接触部を排除し、駆動の妨げとなる無効トルクを最小化できる。また、駆動ユニットと電磁石はロータの下半球付近に集中配置しているので、例えば、カメラを搭載した場合、ロータの上半球方向には障害物が無く、広範囲な監視が可能となるなど、可動範囲が極めて広い多自由度アクチュエータを実現することができる。
図2 基本構成
図3 駆動ユニットによる摩擦駆動原理
3. 試作機のスペック
表1に試作機のスペックを示す。Motor Aは2自由度制御型球面圧電モータ、Motor Bはロータの回転角を計測するための2組の回転角センサ(2次元イメージセンサ)をモータに内装した3自由度球面圧電モータ、Motor Cは電磁石に替えて永久磁石を用いた3自由度球面圧電モータで、センサは具備していない。代表例として、図4に試作機(Motor C)の外観を示す。ロータにはf30mmの中実鋼球を用いた。積層圧電素子はNECトーキン製(AE0203D04)で、セラミックス製の先端チップおよびモータ本体に接着固定されている。
表1 試作機のスペック
図4 試作機(Motor C)の外観
4. 試作機の駆動特性
図5にMotor Aの位置追従特性を示す。Motor Aは回転角センサを内装していないため、ロータの回転角を計測するための高精度センサをモータの外側に配置して位置決め制御系を構築した。その結果、位置の目標値が全体として渦巻き状に連続的に変化した場合においても、±9.5degの全域において良好な位置決め制御効果を確認した。また、Motor Aの定常位置決め誤差を測定した結果、0.012deg(3s)であった。摩擦補償効果によって安定した制御特性が得られた。図6はMotor Cの無負荷速度特性で、一例として、x軸回り(qx-axis)の駆動特性を示す。駆動周波数30kHzと10kHz共に安定した回転動作が得られ、周波数30kHz,印加電圧36Vの駆動条件下で最大角速度113deg/sが確認された。図7にMotor Cの動トルク特性(qx-axis)を示す。永久磁石の与圧力は11.5Nで、角速度が33deg/s の時に10mNmのトルクが得られた。負荷速度曲線図で良い線形性を確認した。
図5 試作機(Motor A)の位置追従特性
図6 試作機(Motor C)の無負荷速度特性(qx-axis)
図7 試作機(Motor C)の動トルク特性(qx-axis)
5. おわりに
球面圧電モータの試作例として、2自由度制御型球面圧電モータおよび3自由度球面圧電モータについて紹介した。球面圧電モータは、小型コンパクトで簡素な構成であるにもかかわらず、広範囲で高精度かつ多様な動きに対応できる汎用性の高い多自由度アクチュエータである。また、1つのモータで多自由度の回転動作を実現でき、1軸モータを複数使用した従来構成に比べて小型化と高効率化,省電力化が期待できる。今後、制御方法や駆動方法を見直し、更なる特性改善を図って行く予定である。
参考文献
[1] | 領域代表者 樋口俊郎: ブレイクスルーを生み出す次世代アクチュエータ研究, http://yokota-www.pi.titech.ac.jp/index-A.html. |
[2] | アクチュエータシステム技術企画委員会編: アクチュエータ工学 (2004), 養賢堂. |
[3] | 高橋 博, 西村 修, 秋葉 敏克: ダイナミックレンジが広い2自由度制御型球面圧電モータの開発, 2007年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集, J44 (2007), pp.751-752. |
[4] | 自在に回転する球面圧電モータ, 東芝レビュー, Vol.63, No.3 (2008), p.44. |
[5] | 高橋 博, 西村 修, 額田 秀記: 3自由度球面圧電モータの開発, 2008年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集, L36 (2008), pp.929-930. |
[6] | http://www.toshiba.co.jp/rdc/rd/detail_j/0809_02.htm. |