物質,精神の両面で人々の生活や社会を豊かにするモノやコトを実現するには,英語においては共に"design"と表記される「(工学)設計」と「(インダストリアル)デザイン」の高度化,体系化が必要である.これまで,設計・デザインはその対象や領域ごとに専門化と細分化を進め,それぞれが独自の手法や方法論を構築してきたが,共通となる理論的な基盤や枠組みを欠くことによる限界や問題が顕在化しているように思われる.そこで,設計,デザインの共通の基盤となる理論や科学的枠組みの必要性や可能性について議論を行なうことを目的として,主査,幹事,委員19名をメンバーとして2008年6月にA-TS12-08 Design理論・方法論研究会が発足した.
本研究会で対象とする「設計」と「デザイン」には共通する部分も多いが,企業における「設計者」と「デザイナー」は異なる職種であり,その採用プロセスや大学などにおける教育プロセスも異なることが示すように,「設計」と「デザイン」には異なる部分も少なくない.
設計とデザインの行為における理論,方法論,方法,実務の関係を図式化した一例[1]を図1に示す.この図は,設計とデザインの実務,方法,方法論,理論は,共通する部分と異なる部分があること,設計とデザインの相違は具体的な実務になるほど大きく,抽象的な理論になるほど小さい,ということを表している.
ここで,文献[2]によれば「理論」とは「事象を合理的に説明するための論述」と説明されており,その意義として次のような点が挙げられている.
(1) 複雑な現実の世界を単純化することを可能にする.
(2) 得られた知識を蓄積する上で有効な思考上の枠組みを提供する.理論が確立されている内容は理解や学習が容易となる.
(3) 均衡の取れた総合的な視野を提供し,さらに直感的または感覚的な結論を回避して論理的な説明を行うことを可能にする.
従って,設計,デザインに関する理論と,それに基づく方法論,方法を構築していくことは,実務において (1)優れた設計解,デザイン解を導く,(2)解に至る時間や手間を軽減する,(3)導かれた解の根拠や過程を明示化する,といった効果をもたらすことが期待できる.一方,設計,デザインに関して現在提案され用いられているさまざまな方法,手法について,それがどのような経験則,方法論,理論に基づくものであるかの分析と理解をすることは,それらの方法に過大な期待や過小な評価をすることなく,その性質,利点,限界を正しく把握して活用することに通じる.
そのような目的で本研究会では,次のような内容に関する議論,調査,研究を行なう予定である.
文献
[1] 松岡由幸,デザインサイエンス−未来創造の”六つ”の視点,丸善,2008.
[2] フリー百科事典Wikipedia(http://ja.wikipedia.org/wiki/).
[3] 村上存,設計・デザインと科学・工学,日本機械学会第18回設計工学・システム部門講演会,2008,pp.18-20.
Design理論・方法論研究会 主査 村上存(東京大学)
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