No.25(2006年8月5日発行)
1. 復刊の辞
2. 部門長就任の挨拶
3. 部門長退任の挨拶
4. 元部門長所感
5. 副部門長就任の挨拶
6. 部門推薦による学会賞
7. No. 05-27 第15回設計工学・システム部門講演会報告
11. ファーストオーダアナリシス(First Order Analysis)の紹介 ― アメリカ自動車技術会における動向から ―
12. 技術者は,法も設計すべきである
14. ASME DETC&CIE ConferenceにおいてJSMEセッション開催される
15. 構造・機械システム最適化に関する第3回日中韓ジョイント・シンポジウム(CJK-OSM3)開催報告
16. Japan / US Workshop on Design Environment 2004開催報告
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復刊の辞
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梅田 靖(大阪大学) |
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部門長就任の挨拶
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藤田 喜久雄(大阪大学) |
今期の部門長を仰せつかりました.微力ながら運営委員のみなさまともに部門の一層の発展に努力していく所存でおりますので,ご協力,ご支援を賜りたく,なにとぞ,よろしくお願い申し上げます.
さて,設計工学・システム部門は,今期の部門講演会が第16回となり,諸先輩方のご尽力により当該分野の情報交換の場として定着してきているように思います.第1回の講演会は1992年1月にまで遡りますが,当時の講演会には縦型に並立した機械工学の諸分野に対して横断的な設計工学やシステム技術についての研究発表の場が新設されたことによる高揚感が漂っていたことを改めて思い起こします.その後のバブルの崩壊に端を発した失われた10年などを経て,製造業を取り巻く環境や状況は大きく変容してきていますが,それらの過程を経て設計工学やシステム技術への期待は一段と高いものになってきているように思います.知識基盤社会 (Knowledge-based society) と称されることを一つの象徴として,科学技術の高度化のもとで知識そのものが財となってその統合的な活用が新たな価値の創出を担うようになり,BRICs 諸国の成長などのもとで製造業のグローバル化は新たな次元に向かいつつあります.成功する製品の鍵も垂直統合から水平統合へと広がり,より広範な視点のもとでの大域的で頑強な最適設計解が求められつつあります.また,手段としてのコンピュータの一層の高性能化は従来では考えられなかったような設計支援技術やシステム技術の可能性をもたらしつつあります.さらに,成熟した社会の到来は機械に求められる価値の高度化と多様化を求めています.それらのもと,横断的な学術の深化や技術の展開の意味も旧来の範疇や性質を超えたものにまで広がりつつあるように思います.
一連の変化に向けては,産官学に限らず社会の各方面の間での様々な連携を通じて新たな方向性を共有し,協働によってそれらの展開を進めていくことが基本となるはずです.設計工学・システム部門にはその核としての役割が期待されており,講演会への参加者の拡大や部門登録者の一層の増加がその役割を担う上での相乗的な鍵となり,それらのもとで講演会や講習会などの各種の企画もより充実してくるものと思います.折りしも,当部門は関連の4部門と合同で,設計や生産,システムについての英文誌ジャーナルを近々創刊することになっておりますし,国際会議の企画なども進みつつあり,当部門の活動も新たな次元へと展開が進みつつあります.
以上のような可能性のもと,みなさまと一緒になって,当部門をさらに魅力ある部門へと発展させていく所存ですので,ご支援,ご協力,ならびに,忌憚のないご意見をいただきたく,切にお願いする次第です.
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部門長退任の挨拶
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村上 存(東京大学) |
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元部門長所感
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山崎 光悦(金沢大学) |
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副部門長就任の挨拶
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青山 和浩(東京大学) |
この度,部門運営委員による選挙におきまして平成18年度(第84期)の副部門長に選出させていただきました.正直なところ,非常に責任の重さを痛感しております.(謙遜の意味ではなく)私のような新参者が選出されるのは,部門における人材枯渇の問題が存在しているのでしょうか?改めて,部門活性化の重要性を感じている次第でございます.ところで,昨今の環境・エネルギー問題を始めとする様々な諸問題を眺めると,我々が対処すべきシステム/問題は複雑化の方向にあることは間違いありません.このシステム/問題が複雑になるという事実は,その境界の拡大を意味し,認識すべき要素の増加,要素間の関連が爆発している状況にあると認識できます.この様な中では,システムの拡大に応じて認識する領域を広げる必要があり,様々な視点を有した仲間を作り,多くのコラボレーションを活性化する場を構築することが重要です.昨今,コラボレーションの活性化においてはコミュニケーション能力の重要性が再認識されます.設計とシステムを掲げる当部門においては,システム要素間の関連を見極め,システム全体を設計できるコミュニケーション能力を涵養できる「仕掛け」への挑戦が必要なのかもしれません.部門の活動を活性化するにはどの様なことが出来るのか.これは,具体的な課題ですが難問題でもあります.個人的には,コミュニケーションをキーワードに,活性化の可能性を考えることができればと思っております.現在,英文ジャーナルの部門編集委員長も兼務しており,部門所属の会員諸兄におかれましてはいろいろとお願いすることも多くなるかと思います.藤田部門長を支え,部門の更なる活性化へ向けて微力ながら努力して参る所存でございますので,皆様のご支援,ご協力をお願い申し上げます.
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部門推薦による学会賞の受賞
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以下の方々が本部門の推薦により,2005年度日本機械学会賞を受賞されました.
◆奨励賞(研究)
北山 哲士 〔金沢大学〕
大域的最適化アルゴリズムの研究開発とその応用に関する研究
◆教育賞
米山 猛 〔金沢大学〕
製作体験を重視した創造設計教育
米山猛,松井良雄,田中志信,岩田佳雄(金沢大学)
◆日本機械学会賞(論文)
柳澤 秀吉〔東京大学〕
大域的形状特徴量にもとづく対話型縮約進化計算 (意匠設計における曲線形状処理への適用)
日本機械学会論文集,70巻,699号,C編(2004年11月)
柳澤 秀吉〔東京都立科学技術大学・院〕東京大学,福田 収一〔東京都立科学技術大学〕
以下の方々が本部門の推薦により,2005年度日本機械学会フェローになられました.
冨山哲男〔Delft University of Technology〕
間瀬俊明〔デジタルプロセス(株)〕
表彰理由の詳細などにつきましては,受賞者一覧のページをご覧ください.
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No.
05-27 第15回設計工学・システム部門講演会報告
―真のゆたかさを実現する設計とシステム―
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設計工学・システム部門 企画 |
2005年8月3日(水)〜5日(金)に北海道大学学術交流会館において「真のゆたかさを実現する設計とシステム」を副題として,第15回設計工学・システム部門講演会が開催されました.成田吉弘実行委員長の精力的な指揮の下,特別講演会3件(冒険家・新谷暁生氏,札幌市立大学学長・原田 昭氏,大阪大学教授・藤田喜久雄氏),基調講演3件(KAIST教授・In Lee氏,北海道大学教授・平井卓郎氏,消防研究所・山田 寛氏)が企画され,副題にある「真のゆたかさ」に即した観点から考えさせられる興味深い内容が多く,いずれの講演も多くの聴衆を集めていました.また,恒例企画となりつつある設計コンテスト,解析コンテストはそれぞれ6件,8件の発表があり,参加者の関心も高く数多くの投票をいただきました.肝心の研究発表講演はオーガナイザーのご協力の下に183件の発表を集めることができ,いずれの会場でも活発な討論が繰り広げられました.なお,大会全体の最終的な登録者数は250名(学校関係186名,企業50名,その他14名)でした.会期中は概ね天候に恵まれ,懇親会,その後の二次会,三次会・・・と短い札幌の夏のひと時を堪能された参加者も多かったことと思います.最後に,講演会開催にご協力いただいた数多くの皆様に感謝いたします.
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部門表彰受賞者の一言(第15回部門講演会)
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長年にわたって設計工学・システム分野の発展に貢献された藤田 喜久雄先生(大阪大学),松岡 由幸先生(慶應義塾大学)の2名が部門業績賞を受賞された.また,荒川 雅生先生(香川大学),廣安 知之先生(同志社大学),大久保 雅史先生(同志社大学)の3名が今回から新たに設けられたフロンティア賞を受賞され,柳澤 秀吉先生(東京大学),北山 哲士先生(金沢大学),青木 久美氏(三菱電機(株))の3名が同じく今年度から設けられた部門研究奨励賞を受賞された.
さらに第15回設計工学・システム部門講演会の優秀研究表彰として,解析コンテスト部門では,伊田 徹士氏((株)日本総合研究所)が設計コンテスト部門では,神谷 潤氏(トヨタ車体(株))が受賞された.
表彰理由の詳細などにつきましては,受賞者一覧のページをご覧ください.
また,コメントをお寄せいただいた皆様のご挨拶をご紹介いたします.
部門業績賞: 藤田 喜久雄先生(大阪大学)
この度,図らずも,部門業績賞を戴き,大変光栄に存じます.関係の皆様に厚く御礼申し上げます.設計工学に関わり始めたのは,大学院の学生時代,とある事情で修士課程の2年次になって赤木新介先生の研究室に籍を移した時のこととなります.しばらく,先生と議論を重ねていくうちに,設計をテーマにしようということになり,知識情報処理による設計支援についての課題に取り組み始めて以来,もう,20年になります.大学に職を得た後には最適設計へも関心を広げました.また,1995年から1996年にかけて,スタンフォード大学の石井浩介先生の研究室に滞在させていただく機会を得ましたが,今から,振り返ってみますと,製品系列の統合化設計,最適化のための関数近似法,設計方法論についての研究,プロジェクト型設計教育の実施など,このところの仕事には当時の着想や体験を出発点としているものが多いように思います.いずれにしましても,私が行ってきた仕事は周囲の方々からの様々な刺激によるものであり,今回の受賞は皆様方との交流によるものと,深く感謝いたしております.博士課程の学生になった時点を起点として40年間は研究が行えるとすれば,まだ,ちょうど,折り返し点にたどり着いたところですので,今後とも,設計工学における新たな課題に挑んでいきたいと考えております.ご指導,ご鞭撻のほど,なにとぞ,よろしくお願い申し上げます.
部門業績賞: 松岡 由幸先生(慶應義塾大学)
この度は設計工学・システム部門業績賞を頂き,誠に光栄に存じます.関係各位に厚く御礼申し上げます.
表彰式の際に伺いました受賞理由によりますと,「デザインと設計の両分野を統合した新たな領域を開拓した」とのこと.正直なところ,それを開拓したと自負するには至っておりませんが,これまでずっとこの両分野の対比や統合を図りつつ,デザインと設計の両実務ならびにそれらを統合する理論・方法論研究に取り組んできました私にとりまして,この受賞理由は,この上ない喜びでありました.
10年前まで私は,ものづくりの現場に身を置き,ひたすら人工物のデザインと設計に従事してきました.また,その間の実務経験を通じて,幾つかのデザイン・設計行為の共通性に関する“実感”も得られています.それらの実感を基に,その後,私はデザイン理論・方法論に関する仮説を立案し,その仮説を実際の人工物デザインに適用することで有効性検証を行うというスタイルで,研究を進めています.
現在,私が主宰しております「デザイン塾」では,デザインと設計の両分野の研究者や実務者が集まり,両者を統合した理論や方法論について議論しています.この議論のなかで,従来のデザインと設計は実務上の補完関係にあるものの,それらの理論・方法論上には多くの共通点が存在することもわかってきました.このことは,両分野を統合する新たなデザイン・設計の研究が有効であることを示唆しており,今回の受賞を機に,皆様からのご指導を仰ぎつつ,今後さらなる努力を続けて参りたいと存じます.有難うございました.
フロンティア賞:荒川 雅生先生(香川大学)
「最適設計」との出会いは,早稲田大学の山川研究室における卒論のテーマ決めの際に希望していたものと違うものになったことに遡ります.当時は AIブームだったために,卒論にAIと最適化を利用するということだけが決まっていました.最適化はもちろんのこと,AIが何の略かも知らなかったところから始まったことを思うと,このような賞をいただけることが非常に不思議な気がしたしております.また,最適化の何たるかを教えてくださった,早稲田大学の山川先生,北海学園大学の杉本博之先生,甲南大学の中山弘隆先生,NASAの三浦宏一先生にはどのように感謝申し上げてよいのかわかりません.研究を始めた当初の私ども山川研のメンバーにとって最適化とは,傾斜投影法でした.何故この方法がよいのかなど,考える術もなく,ただ単に先輩が使っているからという理由で使っておりました.ご記憶の方がどれだけいるかわかりませんが,私の中で山川先生といえば増分伝達マトリクス法を用いた最適設計という動的応答解析を利用した最適化の研究があります.よく知られている伝達マトリックスに「1」をつけただけのマトリクスを増分伝達マトリクスと称して,ウィルソンのθ法を組み合わせた動的応答解析があり,さらに,増分伝達マトリクスの感度を解析的に求められることから,これを傾斜投影法に反映させた方法です.コンピュータの進歩が後4,5年遅かったら,動的応答解析の最適化はこの方法が世界標準になったのではなかろうかと未だに思える方法です.当時は,浅はかだったので,どっからどうみても,ただ単に「1」をつけだだけでこんなにすごいことができるんだとものすごく感心し,これ以上の発想を自分がもてるだろうかといういい目標になりました.最初に自分がテーマ設定から始めた研究にファジイ数の応用があります.学部4年生のときに関西大学の古田均先生が機械学会のなんかの研究会で話題を提供される機会があったようなのですが,客の入りが少ないので,今ゼミ室にいる人間は全員桜としてすぐに来いという呼び出しがあったようです.ゼミ室に着くなり先輩方に強引に連れ出されました.古田先生の話が面白くないわけがないのですが,何のことやらさっぱりわからず,目の前でずっと寝ていたのを覚えています.古田先生に「その席に座る奴は普通は起きて聞いているもんだ」と言われたw?ことが結構ショックで,大学院に行ったころから独学で学んでおりました.博士課程に進んだ春に山川先生がオーガナイザーを引き受けたから,なんか一つくらい発表しないと格好がつかないからやりなさいという一言で本格的に始めることになりました.簡易ファジイ数演算に気がついたのは,それから約1年後のことです.今から思うと,信頼性工学で行っている1次近似と全く同じ話なのですが,自分で気がついたときには,ものすごく感動したのを覚えています.その後しばらくたって,ロバスト設計に結びつけていますが,未だに完結させておりません.実問題を考えたときに,変数間の相関性は無視できません.変数間の相関性が予めわかっているものもあるでしょうし,設計事項として制御できるものもあるでしょう.それぞれにおいて対応は変ってきます.そして,非線形性の度合いに応じても変ってきます.それぞれのケースに合わせた定式化をして,多目的最適化を解く必要があるはずなのですが,分かり易くそういう状況を説明できる良い例題が見つかっていないのが現状です.そのころ,ミシガン大学の菊池先生らがはじめになった位相最適化がはやりだしてました.内容をよく理解できなかったのですが,これは面白そうだと思ったことと,こんなに沢山感度を求めなくてはいけないのだったら,これは大変だと思いました.当時,ニューラルネットワークがはやっていたので,何とか2次形式に落とし込んで,ニューラルネットワーク的に解いてしまえと考えておりました.そんなときに土木学会の最適化シンポジウムの講演で,小林重信先生の遺伝的アルゴリズムの講演を伺い,これだと思って,遺伝的アルゴリズムを利用した位相最適化の研究をしました.この種の方法は,全世界的に同時期に色々な方が手がけておられます.私もその一人だったわけです.ところが,よくよく考えてみると,条件を与えた後の位相は,ある程度必然的に求まるものであり,均質化法はもっとよく工夫されていて,遺伝的アルゴリズムを利用するよりも数倍優れているということに気がつきました.浅知恵で飛びついてしまい,遺伝的アルゴリズムの本質も見ずに,それを使ったというだけで論文になるからやってしまいましたということをしてしまったわけです.自分自身への視・ク望もありましたが,遺伝的アルゴリズムに対する失望も同時に非常に大きかったです.こんなひどい方法はないと思っていた私を説得してくださったのが杉本先生でした.「少なくとも土木の世界には遺伝的アルゴリズムを利用しない限り解けない問題があるから,もう少しちゃんと勉強してみたら」と言われました.そして個人的に抱えていた不満を解消するために考えたのが領域適応型遺伝的アルゴリズムでした.この程度のことは誰かが既にやっているだろうと思っていたのですが,名古屋大学の福田敏男先生の紹介でお目にかかったMichalewicz先生が,そんな方法聞いたことないし,それはルール違反だとおっしゃったので,やってみる価値はあるだろうと思いました.パラメータの設定方法が難しいのですが,うまくはまれば,未だにいい遺伝的アルゴリズムの方法だろうと思っております.遺伝的アルゴリズムを通じて,それぞれの方法にあった使い方をしっかりと見極めて壊しても良いルールとそうでないものを取り違えると,場を荒らすこともあって,極めてよろしくないということを学ばせて頂きました.
多点近似に興味を持ったのはカリフォルニア大学のAgoginoの研究室を訪問しているときでした.毎週水曜日にミーティングがあります.ここで,学生たちが彼女を説き伏せるという形で進んでいきます.最適化の研究者だと思っていた彼女は,最適化にものすごく否定的でした.彼女が理由にしたのが,実用的でないということです.モデルを作って最適化をしたところで,コストばかりかかってでてきた結果は使い物にならないということを何度となく言われて最適化には失望しているという論調を彼女のゼミ生と一緒になって壊すのが週1回の仕事になります.そんな中で重要なことが,多目的最適化と近似最適化だと言う気がしてきました.その後,近似最適化は,中山先生に教えていただいたRBFの近似を利用するようになりました.複雑な応答曲面には適しています.今,これを利用して実用的な問題を一つでも多く解こうという活動を,NPO「しなやかシステム工学研究所」の椹木義一先生のご指導の基で行っています.多目的最適化に関してはようやく手がつき始めた段階ですが,少しずつ形らしいものが見えてきております.これからも多くの協力者とともにw?進めていきたいと思っております.
長々と自分自身を振り返ってしまいましたが,幸いにして色々と教えてくださる先達に恵まれてここまで研究を続けていくことができました.今は,金沢大学の北山哲士先生にPSOを教えて頂いたり,幸いにして後輩にも追い立てまくられています.そういう幸運を与えてくれた「最適化」という技術が実用に供するように私なりにできることをしていくことが,この賞を頂いた私への使命かなと思っております.部門の皆様におかれましても,今後とも,ご指導ご鞭撻をいただけますよう,よろしくお願い申し上げます.
部門研究奨励賞:柳澤 秀吉先生(東京大学)
学生時代に,設計工学・システム部門講演会で講演表彰を頂いたことが大きな励みとなり,これまでの研究を進めて来られたご恩に重ねて,この度,奨励賞を頂き身に余る光栄で,同時に身の引き締まる思いでもあります.
私の研究の問題意識は,「多様な感性に基づく設計要求をいかに具体化するか」です.日本特有の概念である感性は,特に,統合を扱う設計において,その重要性が高まっています.従来から,感性工学など分野でも多くの試みがありますが,これらは,主に統計的に平均化しても問題ない感性を扱っていました.しかし,感性は本来,個人によって多様であり,また多様化が進む要求に対応するためには,感性の多様性は無視できない状況であります.そこで,我々は「多様性」と「個」に着目した感性要求の具体化手法と設計支援について研究してまいりました.具体的には,意匠形状の設計問題を対象に,個人間の感性の相違を定量的に示す手法を開発し,デザイナと一般顧客間での感性語の意味の相違を明らかにしました.また,顧客個人の漠然とした意匠形状に対する要求のイメージを,計算機との対話により具体化する,対話型縮約進化計算法(IREC)を開発しました.
感性の問題は,まだまだ,やらなければならない事が山済みです.頂いた賞を励みに,より一層励んでまいりたいと思っております.最後になりましたが,いつも温かいご指導を頂いている設計工学・システム部門の方々に,改めて厚く御礼を申し上げます.
第15回部門講演会における受賞者の方々
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部門表彰受賞者の一言(第14回部門講演会)
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長年にわたって設計工学・システム分野の発展に貢献された吉村 允孝先生(京都大学)に部門功績賞が,また,畑村 洋太郎先生(工学院大学),Panos.Y. Papalambros先生(The University of Michigan)の2名が部門業績賞を受賞された.
さらに第14回設計工学・システム部門講演会優秀発表表彰は小木曽 望先生(大阪府立大学) ,福田 収一先生(首都大学東京),遠田 治正氏(三菱電機(株)),出浦 智之先生(神奈川工科大学),米澤 基氏(同志社大学(現在:NTTコミュニケーションズ) )の5名が受賞された.また,優秀研究表彰として,解析コンテスト部門では,山口 洋氏(サイテック(株))が設計コンテスト部門では,小林 正和先生(京都大学)が受賞された.
表彰理由の詳細などにつきましては,受賞者一覧のページをご覧ください.
また,コメントをお寄せいただいた皆様のご挨拶をご紹介いたします.
部門講演会優秀発表賞:小木曽 望先生(大阪府立大学)
優秀発表表彰をいただき,ありがとうございました.
「学生と社会人を交えた3次元CADを用いた設計教育」は2001年から始めた「夏休みセミナ」と称した3日間の設計教育の内容を紹介したものです.このセミナでは,学生と企業の設計者を協同チームとして,3次元CADを用いたチーム設計の流れを体験してもらうことを目的としています.当初は学生に設計過程を体験してもらうために,企業の設計者には手助けをしてもらうつもりだったのですが,設計の初期段階を体験できること,チーム設計としてリーダーシップを発揮し,学生をまとめていくことなど,設計者魂をそそるものがあったようで,これらを目的として参加する社会人も増えてきました.
2005年は90名が10チームに分かれて,コップ搬送機の設計に取り組み,3次元CADによるモデル作成だけでなく,CAEを用いた解析検証まで進めることができました.
このセミナは,3次元CADはあくまでも検証手段のひとつであり,設計目標を具現化するための設計仕様をどのように数値化していくか,設計目標を実現するための本質は何かを考えてもらうことが中心となっています.参加者は,寝る間も惜しんで設計に取り組み,「設計の苦しさと楽しさ」を十分に味わっています.
本年は,8月4日(金)-6日(日)に三菱電機関西研修センターで開催します.詳しくは,http://www.cadic4d.com/index.htmlをご覧ください.ぜひこのセミナに参加して,設計の本質を体験してみませんか.
部門講演会優秀発表賞:福田 収一先生(首都大学東京)
このたび,優秀発表賞を頂き,感激しております.ありがとうございました.優秀発表賞は,若い方のための賞とばかり思っておりました.私のような年寄りが 頂戴しますと,これは精神的な若さに対して頂戴したのではないかと多少危惧もしております.今後は精神的にも成長するようにとの暖かい励ましを頂いたと 思っております.頂いた対象が,今後設計において急激に重要性が増大すると考えている価値創造の問題,そのためにコミュニケーションが果たす重要な役割, さらに,それに関連して最近話題となっている技術経営が本質的には設計の問題であるとの私の主張の講演でしたので,主張をお認めいただけたと思い感謝して おります.
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部門表彰受賞者の一言(第13回部門講演会)
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長年にわたって設計工学・システム分野の発展に貢献された間瀬 俊彦様(デジタルプロセス株式会社),木村 文彦先生(東京大学),尾田 十八先生(金沢大学)の3名が部門業績賞を受賞された.
さらに第13回設計工学・システム部門講演会優秀発表表彰は小林 孝氏(三菱電機),鍵山 善之先生(神戸大学),千葉 一永先生(東北大学),竹澤 晃弘先生(京都大学)の4名が受賞された.また,優秀研究表彰として,解析コンテスト部門では,小宮 聖司先生(神奈川工科大学)が設計コンテスト部門では,坂本 博夫氏(三菱電機(株))が受賞された.
表彰理由の詳細などにつきましては,受賞者一覧のページをご覧ください.
また,コメントをお寄せいただいた皆様のご挨拶をご紹介いたします.
このたびは思いもかけず設計工学・システム部門の業績賞を戴き大変光栄に思い,また感激しております.私自身は自動車産業において長く設計の自動化やシステム化の仕事に従事してまいりましたが,民間企業での活動であったことからこのような賞をいただけるとは思ってもいませんでした.ご関係の皆様やこれまでお世話になりました皆様には厚くお礼申し上げます.思い起こせば1960年代の後半,自動車開発の最上流にあたる造形線図作業の3次元自動化に取り組んだのがこの分野に入るきっかけでありました.当時まだCAD/CAMについて明確な概念や技術がないなか,開発期間短縮を目指し工機部門と連携して当時のクリティカルパスであった金型製作にいたるプロセスのデジタル化を目指しました.この間,図面の本質は何か,それに代わって3次元化することの意義は何か,など自らに問いかけつつ真の設計者のためのシステムやツールの構築を心がけてまいりました.しかし最近は残念ながらグローバル化が叫ばれるなか,3次元CADをはじめ様々な設計ツールも欧米製が主流になってきました.そんななかで日本の物つくりの強みを発揮しやすい道具が失われつつあるのを危惧しています.
これからはもう一度原点に戻り,エンジニアリング分野のシステム化で今後何を目指すべきか,新たな気持ちで追求してみたいと思っています.引き続きお教えをいただけますようどうかよろしくお願いいたします.
この度第13回設計工学・システム部門講演会において,部門業績賞を授与されました.まことに身に余る光栄で,ここに関連の方々に厚く御礼申し上げます.
顧みますと,私が設計に対して強く意識を持つようになったのは,今は亡き東京大学精密機械工学科の宮本博先生の所へ学位論文の指導を受けに度々訪問していた30数年前の頃だったと思います.学位論文の審査も終了し,宮本先生がその居室で副査の先生方も交えて私のために祝宴をしていただきました.その折,一般論としてのこれからの工学研究の方向の話が出ました.その議論は,当時の私にはきわめて新鮮であり,今もその内容を記憶してますが,「工学として最も大切な分野は,物造りの方法論を確立することだと思う.つまり設計論の確立である.しかし,これがまだ最も未開拓で,おもしろい分野でもある」というような主旨の話をお1人の先生がなされました.実はその方が当時若手の助教授の吉川弘之先生(元東大総長,現産総研理事長)だったのです.
この話はその後の私の研究方向に大きく影響を与えました.それは基本とする専門分野が材料力学でありながら,常に物造り法としての設計との関連性を意識しつづけた事です.それで昭和50年頃からは構造・材料の最適設計法の確立等を主研究テーマとしました.この分野は当時のコンピュータ技術の長足の進歩,特にFEM等,解析手法の進歩と共に研究者も増え,大いに発展し今日に至っております.ただ設計といっても人工物を造ること自身が,我々に益をもたらすと同時に,とりまく自然,生態環境に幾つもの害も与えることも明らかになって来ています.したがってこれからはいかに自然・生態系に調和した物造りを行うか,つまり Sustainable development を可能とする設計の方法論の確立が工学の最重要課題であろうと思われます.このような意味から,現在生物に学ぶ物造り法としての「バイオニック・デザイン(Bionic design)」の研究を進めていますが,すでに60才を超え,日暮れてなお道遠しの感があります.若い当部門の方々のこの分野への関心と活動を御期待申し上げると共に,当部門の益々の発展を祈って,業績賞受賞のお礼の言葉とさせていただきます.
このたびは,第13回設計工学・システム部門講演会での優秀発表表彰を頂き,光栄に存じます.激化するグローバル競争下において,高付加価値な製品を低価格/短期に提供する総合設計力は製造業の経営コアコンピタンスとしてますます重要となっています.今後,日本製造業が生き残るには,日本の良き協調設計文化に欧米発のディジタル設計ツール群を技術/経済合理的に融合したプロセスの全体最適化が急務と考えます.つまり,従来の『暗黙』,『あうん』といった日本固有の開発文化に,欧米発の形式化・体系化された合理的メソッド(DMAIC)を融合してプロセスを再構築することで,日本製造業のポテンシャルの顕在化,復権は可能だと確信しています.本稿では,欧米型のTop-downでも,日本型のBottom-upでもない,中間統合チームを中心としたMiddle-up-
down型の柔軟な協調プロセスや開発体制を提言し,薄型ノートPCの開発実績からその有効性を実証しています.現在,この『Middle-up-down協調設計手法』は当社の製品開発へ適用拡大し,手法の体系化,理論強化を推進中です.引き続き,『JSME設計研究会A-TS12-05』での産学委員をはじめとした本部門会員の皆様との意見交換についても,宜しくお願い申し上げます.末筆になりましたが,本講演会の運営に御尽力された関係各位にこの場を借りて,深く感謝申し上げます.
このたびは設計工学・システム部門におきまして名誉ある優秀発表表彰を頂き,関係者一同大変光栄に存じます.受賞を励みと致しまして,今後いっそう研究活動に尽力することを決意致しました次第であります. さて,今回発表させていただきました内容は,構想設計段階におきまして,設計者を力学的に支援するというFirst Order Analysisの概念に基づき構築しました構造最適化手法の一例です.具体的に述べますと,自動車のボデーフレームのような一般的な断面形状を持つフレームの場合は,慣性主軸の方向を荷重に対して適切な方向に向けられれば,高剛性を期待することができます.そのため,本研究では,その最適な慣性主軸の方向の回転角を,KKT条件を用いて導出する方法を構築致しました.本研究において私が重要視しましたのは,実際の設計現場への適用という観点です.本研究では自動車ボデーフレームやフレーム構造で構成される内装部品という,特定のプロダクトを対象として,可能な限り現実の設計過程を考慮して手法を構築いたしました.製品に高品質,多機能が求められ,設計活動が複雑化する中にあって,汎用性に拘泥せず,特定プロダクトの設計法の一例として手法を提案することが,実学である設計工学の一つのアプローチあると考えております.最後になりましたが,研究内容を発表する機会を頂いた日本機械学会設計工学・システム部門の方々および学会関係者各位に深く感謝申し上げます.
この度は優秀講演表彰を頂戴致しまして,大変光栄に存じております.発表の場を与えて頂きました学会関係者各位,共同研究をさせて頂いている指導教官の多田先生,大阪大学多元画像研究室と大阪大学整形外科には厚く御礼申し上げます.本研究の対象としております「人工股関節置換手術」では,人工関節の設置が手術後の患者の歩行や屈伸といった日常生活の動作に影響を与えるため,適切な手術計画を立てることが重要とされています.これまでの手術計画はX線画像にもとづいて行なわれており,よりよい手術計画をたてるために複数の客観的な評価値が用いられてきましたが,X線画像から奥行き方向の情報は得られないため,CT画像から再構成した3次元モデルを用いて手術計画を立てるシステムが研究されています.これは3次元的な手術計画が立てられるため,近年発展がめざましい手術ナビゲーションシステムや手術ロボットとの親和性が高いのですが,レンダリングや3次元での解析には膨大な負荷がかかり,どの一般病院にも容易に導入できるものとはいえません.そのため,ネットワーク経由でPCクラスタやグリッド等の高性能なコンピューターに処理を委託することで,高速に手術計画を立てることができないか検討致しました結果,その有用性を確認することができました.また,経験の豊富な医師のノウハウを定量化しアルゴリズムに組み込むことにより,より高度な自動手術計画システムを構築できるものと考えております.このシステムは,医師の負担の軽減だけでなく医療水準の向上も目指しており,今後も自動化に向けた研究を継続して参りたいと思います.
このたび,設計工学・システム部門講演会解析コンテストにおきまして優秀研究表彰をいただき,大変光栄に思っております.
現在,パーソナルコンピュータは数年前と比較にならないほどの計算能力を持つ時代となり,技術者が手元で設計から解析まで,手軽に行えるようになって来ました.しかし,その多種多様で膨大な出力を自ら評価して行く事が,開発者にとって特に重要となってきているこの時期に,本システムの位置付けや必要性に対して,私どもの発表内容に多くの方々が興味を持って頂けたものと思います.
本システムは鉄道車両が高速走行中に地盤から加速度が加わった場合の車輪とレールとの複雑な現象を例に取り上げ,その相互運動等の動的解析結果をコンピュータ内の仮想現実空間に可視化して,よりリアルに設計者にその現象を伝えられるように工夫されたものです.この,仮想現実空間における車両走行実験によって,製品が生まれる前の設計の段階で様々な工学的および視覚的な検討が可能で,実物の線路構造物上での走行実験等とあわせて,新しい線路構造の設計や評価に利用できると考えられます.本システムは,鉄道総合技術研究所との共同研究により,現場で実際に使われる方の意見を取り入れる事により,社会のニーズにあった,製品開発を意識したシステムの開発に留意しました.
この表彰により,今後の研究に大変よい励みになるとともに,微力ながら今後とも製品開発に貢献できれば幸いです.改めて,貴重な教示を頂いた先生および鉄道総合技術研究所の方々に,厚く御礼を申し上げます.
設計工学・システム部門講演会設計コンテスト優秀研究表彰:坂本 博夫氏(三菱電機(株))
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技術者は,法も設計すべきである
―技術倫理は慣習法の世界ではないのか?― |
福田 収一(首都大学東京) |
最近,技術倫理への関心が急速に強まり,機械学会の中でも技術倫理委員会ができた.また他の分野の多くの技術系学協会においても委員会が設置され,きわめて活発に活動が行われている.
しかし,技術者は法を作る立場ではないことから,法体系についての議論は,どこでもほとんど行われていないように感じている.すなわち,現行の法体系のもとで,技術倫理をどのように考えるべきかの議論は,きわめて活発であるが,逆に,技術倫理を追及するための法体系はどのようなものでならないかの議論はほとんど行われていないと感じている.
この背景には,技術者は,工学部の出身で,立法などの活動は法学部の活動領域であった事実があると思われる.しかし,筆者は,技術倫理に係らず,技術が私たちの社会活動においてきわめて重要な役割を果たす現在,技術に関する法は,法学部よりも,むしろ工学部が主導権を握り設計すべきであるとの立場である.
このように考える技術者はきわめて少数派であろう.しかし,技術の体系が見通せなければ,それに対する法体系ももともと整備できないであろう.すくなくとも,法の戦略目標を決める役割は,技術者が主導権を握るか,あるいは少なくとも,法学者と同等の役割を果たすべきである.それをいかに矛盾のない法体系に仕上げるか,法源の問題はどうかなどは法学者の領域であろうが,少なくとも,法がなにを目指すべきかの決定には,技術者が深く責任をもって関与すべきである.
さて,日本の法体系は,成文法である.これに対して英米では,慣習法〔判例法〕を基本としている.しかし,日本では,例えば,アメリカの技術倫理の方法論が議論されるが,その背景にある成文法,慣習法の相違,その長短などについての議論はほとんど行われていない.
筆者は常に,技術に関する法は,とくに技術倫理は,本当に成文法の体系に合致するのであろうか?と疑問に感じている.技術の進歩の速度がきわめて速くなってきていることは,いまさら言うまでもない.成文法は,それまでの知識,体験,そして社会常識を法体系にまとめた法である.したがって,それは昨日の私たちの知識,体験,社会常識でしかない.
これに対して,技術の社会は,極言すれば,昨日の常識は,今日の非常識である.このような分野を対象にし,日夜戦っている技術者にとって,昨日の常識で判断せよと指示することは,技術者に,非常な無理,難題を押し付けていると筆者は考えている.
筆者は,むしろ,技術者が主導権を握り,彼らの社会的責任感を基本に,また社会的常識を基礎に慣習法の立場から,法体系を整備し,その更新を日々怠らないことこそが,技術者が本来もっている社会に対する責任を果たす道ではないかと考える.
すなわち,いかに法を設計するかは,技術者の重要な役割である.これまで,技術者は,技術製品だけの設計,開発にしか目を向けて来なかったが,これからは,社会システム,法の設計も技術者の重要な任務と心得て,その責務を果たすべく最大の努力を果たすべきではなかろうか?
法学者からは,技術者に法のなにが分かるとの反論を受けそうである.しかし,逆に法は,社会常識の反映であるとすれば,技術が社会常識を日々変えている現在,技術者こそ,法を整備する最前線にいると考えるほうが妥当であろう.
英米の法体系が慣習法となった背景には,イギリスは,七つの海を支配し,アメリカは西部開拓で,いつも世界が拡大していった事実があるのであろう.日々,世界が拡大する状況では,過去の知識,経験を体系化した成文法では役立たない.常に日々新しい状況に対応できるためには,直前までの知識,経験を最大源活用し,新しい世界に対応できるように,法を絶えず更新してゆく必要がある.慣習法とは,このような日々拡大する世界を対象とする法体系であろう.技術の世界が,境界が固定された世界なのか,日々境界が拡大する世界なのかは,いまさら問うまでもなく,自明である.
このような自明な事実がありながら,技術者のための法を作ろう,技術者こそ,法,とくに技術倫理に関する法の主導権を握ろうとの声がほとんど聞こえてこない事実を,筆者はきわめて遺憾に思っている.
機械技術は,きわめて古い技術であり,長い歴史がある.その機械技術が今日でも重要な技術であり続けている理由は,ひとえに,機械技術者が,他の分野の技術者に勝るとも劣らない努力を重ねて,機械技術の世界を拡大してきたからに他ならない.このように,境界を拡大し,世界を広げてきた機械技術者は,技術者集団の中でも,慣習法の立場から,法を作り上げる能力を十二分にもっているはずであり,機械技術者こそ技術倫理法をつくりあげる先導役を果たすべきであろうと考えている.
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ファーストオーダアナリシス(First Order Analysis)の紹介
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鶴見 康昭(豊田中央研究所) |
2004年3月にアメリカ自動車技術会の国際大会が開催された.本会議は,自動車に関するメーカー,研究機関が集い,業界のトレンドを知る上では参考になる会議である.ここでは,その中のFOA(First Order Analysis)セッションについて紹介する.FOAセッションでは12件の発表がなされた.そこに共通する考え方は基本設計をいかに効率的かつ的確に実施するかにあった.なお,具体的な技術内容はSAEPaper*を参照されたい.このような共通の背景にいたった課題としては以下のようなことが考えられる.詳細のCAD図面作成後においては,大規模なモデルを活用した数値実験による車両評価が日常的に実施されている反面,初期設計段階の基本的なレイアウトやその断面設計においては,これらの大規模なモデルを有効に活用することが困難である場合が多い.それは計算時間を必要とすること,大幅なモデル変更がモデルの複雑さの故に困難であることが挙げられる.さらに基本設計段階では,本質的な力学特性の考察の上での形状決定が望まれるが,大規模なFE(Finite Element)計算からは応力分布等の詳細な情報が得られる反面,その中から本質的な特性を把握するには高い力学的な知識を必要とする.以上から,初期設計における効果的な新しい解析法の必要性が叫ばれ,その一つとして,FOAがいくつかの自動車関連会社・大学で提案されている.FOAの目的は,車両の特性に対してその力学特性を把握し,その特性を表現可能な解析式,数値式に落とし込む,あるいは詳細な情報から本質的な情報を抽出する2次処理的手法を考案することにあると考える.本セッションでは,複数の衝突性能に関する取組みが発表された.衝突性能は車両開発の上で最重要な特性の一つであるが,非線形FE計算を必要とする.故にこれらの発表では,シンプルな要素を活用した解析法に新たな考え方を導入し,さらに詳細なFE計算との比較でその妥当性を検証し,初期設計での手法として提案されている.上記のFOAの考え方がある一方で,初期設計でモーフィング等による詳細なFEモデルを活用する方法も考えられる.それも一つの選択肢であり,我々の目標はFOAという従来とは異なる視点の解析手法と従来型の詳細なFE計算をハイブリットで活用することで,今までよりも見通しの良い設計,効率的な設計の実現を支援することにある.そしてこの取組みが,1980当時,SDRCのLemon博士らによって提唱されたCAE(Computer Aided Engineering)の姿(『CAEは個々の解析技術に留まることなく,設計,製造までに現れるあらゆる工程のディジタル化であり,最適化であり,この蓄積した技術,データを企業の戦略にすること』)の実現の一助となればと思います.FOAにおける取組みが自動車業界だけに留まらず,学会等を通じて各産業界へと波及していくことを願っております.
参考文献
1. Ingo, Raasch.: Sizing in Conceptual Design at BMW, SAE, 2004-01-1657 (2004)
2. Hidekazu, Nishigaki., Noboru, Kikuchi. : First Order Analysis for Automotive Structure Design ? Prat3: Crashworthness Analysis Using Beam Elements, SAE, 2001-01-1660(2004)
3. Kenji, Terada., Wlodek, Abramowicz.: Fast Crash Analysis of 3D Beam Structures Based on Object Oriented Formulation, SAE, 2004-01-1728 (2004)
4. Karim, Hamza., Kazuhiro Saitou.: Design Optimization of Vehicle Structures for Crashworthiness via Equivalent Mechanism Approximations, SAE, 2004-01-1731 (2004)
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ASME受賞報告
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福田 収一(首都大学東京) |
この度,元部門長の福田収一先生が,めでたくASMEのCurriculum Innovation Award</span>とCIE Division功績賞を受賞されました.その内容のご報告と, 先生のご感想をお寄せいただきました.
この度,ASME Curriculum Innovation Award Honorable MentionをStanford University のProf. Mark Cutkoskyとともに受賞しました.1998年以来,東京都立科学技術大学はStanford UniversityのME310にネットワークを介して参加してきました.本コースは大学院の設計の授業で,現在急速に普及しつつあるPBLを基礎としています.科学技術大学とStanford Teamは,トヨタ自動車から提供された課題に,ネットワークを介してチームとして取り組み,問題解決を図ってきました.ネットワークを活用したチームワーキングによるグローバルPBLの実施例としては,私たちの例は,世界的にもきわめて初期からの実践例です.
ASME CIAは,1996年から始まった,アメリカの機械科のカリキュラム革新に役立つ教育の実践例に対して授与される賞です.(http://www.asme.org/education/enged/awards/cia.htm).そのためAward本賞は,アメリカの大学以外には与えられていません.私たちが受賞した賞はHonorable Mention賞です.しかし,この賞も,アメリカ以外の大学では,私たちが2番目で,過去にSingaporeのNanyang Technological Universityの例があるだけです.その意味でも,大変光栄に思っております.
この賞を頂いたきっかけは,ある日突然,ASMEから,CIAへの応募要領のメイルが送付されてきたことが始まりです.今回の受賞対象は,既に機械学会教育賞,日本工学教育協会賞を頂いた内容です.あるいは,そちらからなにか推薦を頂いたのかも知れません.せっかくメイルを頂いたので,過去の例を調べてみるとNTUの受賞例がありました.それでは応募してみようと,日米の先生方に推薦をお願いした次第です.
したがって,自分から応募を決め,その推薦を関係者にお願いする,きわめてアメリカ的対応でした.7月中旬に受賞者の発表があるとのことでしたが,夏休みも過ぎ,何も連絡はありません.申請した本人もすっかり忘れていました.ところが,9月に別の用務でStanfordを訪れると,Prof.Leiferが,私に,先週ぐらいに調査団が来て,「あの申請内容は本当か?」とだけ聞くので,「本当さ」とだけ答えておいたと言って笑っていました.
調査団が,何のために,いまごろ来るのか?と非常に疑問に思いました.しかし,心の片隅では,もしかして受賞の可能性があるのか?と思ったことも事実です.でも,授賞式は11月16日の全米の機械科長が集まるDepartment Heads Forumです.いかに時間を気にしないアメリカでも,いまさら賞の選考などをするわけがないと,一瞬期待した自分にあきれ,帰国後はまたすっかり忘れていました.
ところが,10月2日に突然メイルが入り,「受賞しました.ついては11月16日の授賞式に出られますか?出席の有無にかかわらず10月29日までに受賞論文を提出してください」との指示です.これには,うれしいよりもあわてました.海外出張申請は最悪1ヶ月前という日本のルールを知らないのかとぼやいたり,また受賞論文作成と言っても単独受賞ではないので,日米で刷り合わせる必要もある.時間が間に合うかと心配したり,うれしいよりも,準備で追われた10月でした.
それでも,11月16日,Anaheimで開催されたASME IMECEのDepartment Heads Forumで,全米の機械科長の中で賞を頂いたときにはさすがに感激しました.最大の感激は,ASMEの教育関係の担当スタッフのTom Perryが,私が賞を受け取りに行く途中,大きく握手を求めてきたことです.彼とは,昔多くの仕事を一緒にしました.ずーと会っていなかったのに,覚えていてくれ,受賞をともに喜んでくれたことは,感激でした.
興味あることに,私たちと一緒にHonorable Mention賞を受賞したMichigan State, University of Texasの活動もグローバルPBLでした.アメリカではグローバルPBLが今後の重要な教育課題として注目されているのだと理解しました.このDepartment Heads Forumは,次回は北京で開催するとアナウンスがあり,自分の感激よりも,そのニュースにびっくりしました.ASME Department Heads Meetingは,これまで,アメリカ以外での開催はありません.今回が初めての海外での開催です.アメリカの機械科長がそろって北京に行く状況を想像し,一種の恐怖を覚えました.アメリカの「21世紀は教育の時代である.教育こそが,国際競争力の源泉である.」との主張が,単なる言葉ではなく,本気であることをつくづく感じました.日本も,国内だけに目を向けず,教育が21世紀のもっとも重要な基幹産業であることを強く認識し,さらに一層グローバルな展開を図る必要があると感じて帰国いたしました.
福田収一先生(首都大)ASME CIE功績賞受賞!
2005年9月に開催されましたASME International Design Engineering Conferences & Computers and Information in Engineering Conferenceにおいて,首都大学東京の福田収一先生が,CIE Divisionに対する貢献賞を受賞されました.これは,CIEの25年間の活動に対する貢献賞です.福田先生は,CIE Divisionとして統合化される前のいくつかのgroupの一つのgroupでexecutive committee memberをしており,さらに,CIE Divisionでの講演が,アメリカ人を含めて全講演数の中で,10位であり(外国人では福田先生だけ)だったために,貢献賞を受賞されました.
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ASME
DETC&CIE ConferenceにおいてJSMEセッション開催される
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2005年9月24〜28にカリフォルニア州ロングビーチで開催された2005 ASME International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference において,JSMEパネルセッション”CIE Yesterday, Today, and Tomorrow”が開催された.この中で,福田収一先生(首都大学東京),村上存先生(東京大学),吉村忍先生(東京大学),山崎光悦先生(金沢大学),大富浩一氏(東芝)の各氏からJSMEの活動報告とASME・JSMEの今後の協調的発展について活発な議論が行われた.
パネリスト集合写真
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構造・機械システム最適化に関する第3回日中韓ジョイント・シンポジウム(CJK-OSM3)開催報告
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設計工学・システム部門 協賛 実行委員長 山崎 光悦(金沢大学) |
2004年10月30日(土)から11月2日(火)の間,金沢市内の金沢都ホテルを会場に標記シンポジウム(The 3rd China-Japan-Korea Joint Symposium on Optimization of Structural and Mechanical Systems:CJK-OSM3)が開催された.日本,中国,韓国をはじめ5ヶ国から合計154名が参加し,6件の基調講演と32セッション150件以上の構造最適設計に関する研究を中心にした講演が行われ,活発な討論が繰り広げられた.日本からは本学会をはじめ,土木学会,日本建築学会,日本航空宇宙学会,日本計算工学会などの関係者95名が参加した.講演内容では,形状最適化,トポロジー最適化,近似最適化,ロバスト設計・信頼性設計,航空力学,建築工学,土木工学分野の最適設計,製品設計への最適化技術の応用など多岐に渡る講演が行われ,特に近年注目されている進化的計算手法とその構造工学分野への応用や複合領域の最適化の講演が多くあったことが特徴的であった.本シンポジウム講演者の中からYoung Engineer’s Awardに3名が選ばれ,日本からは金沢大学工学部の北山哲士先生がその栄誉に浴された.講演会最終日のバンケットでは,伝統芸能の素囃子に外国からの参加者の注目が集まった.またインダストリ・ツアーでは金沢市内の観光の後,建設機械のコマツ粟津工場の見学を行った.最後に第4回シンポジウムCJK-OSM4を2006年に中国で開催することを期して散会した.日本側の組織委員をはじめ,開催にご尽力いただいた先生方,参加された皆様,開催を支援していただいた企業各社に感謝申し上げ,報告とします.
以上
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Japan
/ US Workshop on Design Environment 2004開催報告
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Chairman: 大富 浩一(東芝),運営委員: 黒岩 正(東芝),小林 孝(三菱電機) |
日本機械学会 設計工学・システム部門A-TS12-05設計研究会(大富主査)では,日米/産学での設計研究動向に関する討議,情報交換の場として,Japan
/ US Workshop on Design Environment 2004を3月に企画・開催しました.Workshopはテーマを変えてMichigan大とStanford大の2会場で行い,のべ60名の参加者を得て活発な意見交換がなされました.本Workshopでは日米の産学研究者から合計27件の発表がありましたので,米国での研究内容や動向を中心に下記に報告します.
Michigan大のWorkshop会場 Stanford大のIshii
Lab.にて
(1)Workshop 1: "Simulation
and Optimization in Design" (Michigan大: 2004/3/12)
ミシガン大では,車のボディの衝撃強度と分解性(Design for
Disassembly)の両立を目指した最適化解析手法(Prof. Saitou)や,Target setting → Target cascadingの手順を踏んで適切な製品コンセプトを立案するAnalytical
target cascading手法(Prof. Papalambros)など,より上流のコンセプト創出,技術と経済合理性の両立を目指した全体最適設計法(Optimizing
at the enterprise level)が紹介されました.また,具体的な成果は今後ですが,Product Lifecycle Development
Consortium (PLMDC) がミシガン大学のProf. Duttaにより立ち上げられ,コンソーシアムメンバとしてGM,Ford,US-Army等が参画するなどPLMの実現に向けたフレームワーク作りが開始されていました.デトロイトの膝元にあるミシガン大学Ann
Arbor校ということで,GMやFordなどの基金によるAutomotive Research Laboratoryにおける機械力学系の解析・最適化分野での産学成果が顕著な印象で,日本としてもより密接な産学連携,協調強化が必要と感じました. (小林記
)
(2)Workshop 2: "Collaborative
Design " ( Stanford大: 2004/3/15)
スタンフォード大学では,dfX
(design for X; Manufacturing, Variety, Reliability など) (Prof. Ishii)や,Team-based
design のための環境構築の研究,設計開発チームのリーダを養成するための教育(Prof. Leifer & Prof. Cutkosky)などが精力的に行なわれていました.dfXでは実際の製品を対象とした研究が進められており,日本に比べて産学間の連携の密度が濃い印象でした.また,Center
for Design Researchでの研究・教育では,すべての設計は再設計であるという考えの基に,フォーマルあるいはインフォーマルな情報や知識をどのように抽出し,再利用・再構築するかということが重要なテーマの一つになっていました.また,ネットベースの協調設計のインフラであるiSpace,iRoomに関する発表もありました.米国企業(ベンダー)からの発表では,実際の設計プロセスに適合させた設計(支援)環境の構築が進んでいることがうかがえました.iSIGHT
及び FIPER (Engineous) は日本でも有名ですが,iSIGHT は個人レベルでの設計プロセスの自動化であるのに対し,FIPER では他企業・海外にもまたがる分散環境での設計プロセスの自動化のためのインフラを目指していました.その他にも製品開発のためのフレームワーク作りは盛んに行われており,知識ベース,標準化された(デファクトなものも含めて)技術ベースで統合化されていました.ただし,それらの多くは,iSIGHTやFIPERを含めて,タスクフローに基づいた定型的な設計プロセスの自動化が主眼と思われます. (黒岩記
)
最後に,全体的な印象をまとめると,米国では3D/CAD→ CAE → CAO(最適化,統計的な高信頼性設計) → PIDO(Process
Integration and Design Optimization)という明確なデジタル設計の進化ビジョンを掲げて,産・官(軍)・学で連携して着実に技術移管を進めていると感じました.また,自動車や航空宇宙でのTopdown的な設計アプローチが主流の米国に対し,JSME設計研究会が目指す『デジタル電子機器での競争力強化を目指したインフラ創生アイデア,柔軟な開発プロセスを対象とした手法』は見当たらず,日本発のオリジナルな発想,研究テーマであることがわかりました.本年度の研究会活動にて具体的な産学成果を創出し,日本発の設計手法として世界発信を目指す計画です.
最後になりましたが,共同スポンサーとしてご支援頂いたMSC Softwareの本山様,現地の会場準備などで多大なご協力いただきました両大学の関係者,活発な議論を頂いた参加者各位にこの場を借りてお礼を申し上げます. (小林記
)
*発表内容の詳細(含むoptional
meeting)は以下Homepage(東大 青山研作成)を参照ください.
http://www.msel.t.u-tokyo.ac.jp/WDE2004/report/index.html
発行日:平成18年8月5日
このニュースレターに関するご意見,ご希望,お問い合せ等は,下記までお願いいたします.
日本機械学会設計工学・システム部門
(部門ホームページ http://www.jsme.or.jp/dsd/)
広報委員長 梅田 靖
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2−1
大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻
umeda@mech.eng.osaka-u.ac.jp
広報幹事 吉岡 真治
〒060-0814 北海道札幌市北区北14条西9丁目
北海道大学大学院情報科学研究科コンピュータサイエンス専攻
yoshioka@ist.hokudai.ac.jp
学会担当職員 遠藤 貴子
〒160-0016新宿区信濃町35番地信濃町煉瓦館5階
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